第52話 確かに好きにしていいと言ったが
「一体何が不満なんだ。奴隷から解放されればもう自由だろう」
「そうだけど、私は助けられた恩をまだ返してない」
恩と言われてもな。俺は別に任務の途中でたまたま出会っただけだしなんなら俺自身に助ける気はなかったわけだし。
「気にするな。助けたくて助けたわけじゃない。だから好きに生きろ。じゃあな」
「だから待っててば!」
俺の腕に組み付き引き止めてきた。振り払おうと思えば何てことはないんだがな。
「何故そこまで俺にこだわる?」
「……リョウガなら信用できると思ったの。それにパーティーを組めば受けられる仕事も増えるんだよね? 悪いことはないと思うわ!」
それは確かにギルドマスターも言っていたが……。
「それに私も冒険者として活動するのは初めてだもの。教わるならリョウガがいい」
教わるって、あのセラといいなんで俺に教わりたがるんだ。
「それに好きに生きろって言ったよね? それなら私は好きでリョウガの側にいさせてもらうわ。パーティーのメンバーとしてね!」
一旦俺の腕から離れマリスがドヤ顔で言った。確かに好きに生きろと言った手前俺と一緒にいたいと言われたら何とも言えんな。
「……わかった。それで気が済むなら好きにしろ。だがパーティーで行動するにしても役に立たないと思えば置いていくぞ」
「う、うん! わかった!」
急に笑顔になったな。俺なんかと一緒にいれて何が良いんだか全くわからん。
「ところでゴイスを殺しにいかなくていいのか?」
「もういいわよあんな奴。よく考えてみたら騙された私も馬鹿だったんだし」
マリスがそう言い切った。なるほど一応自分の失敗した己を省みる事は出来るようだな。
「ところでこれからどこにいくの?」
「宿に戻るつもりだ」
「その、お腹減ってないの?」
腹か。俺はまだそうでもないな。
「俺は特に減ってないからな。食べたいなら好きに行けばいい」
「……その、お金なくて」
「じゃあな」
「待って待って! 返すから仕事終わって報酬貰ったら返すから~!」
結局俺はマリスに頼まれ一緒に飯を食べに行くことになった。全くこんなことで大丈夫なのかこいつは。
「うぅ。美味しい~」
結局俺たちは前にダリバから教えてもらった食堂に来ることになった。俺もまだこの街について詳しくないからな。そうなると一度入った店が一番無難ってことになる。
それにしてもよく食うなマリスは。奴隷として連れ回されていたからろくな食事にありつけなかったんだろうことは予想が付くかそれにしても食う。
「リョウガはあんまり食べないんだね」
「俺は大して腹が減ってないと言ってあっただろう」
食事をするのはエネルギーを補給する意味あいが強い。つまり一日どれだけ動いたかということでもあるが、、今日の仕事は正直そこまで大変でもなかったからな。
この程度なら今日食べなかったとしても問題なかった。
「ちゃんと食べないと明日から持たないよ」
「そうか。なら食べた分お前が頑張るんだな」
「……お前じゃない。マリスって名前があるんだからね」
手を止めたマリスがムッとした顔で言った。名前で呼んで欲しいってことか。
「あぁそうだったなマリス」
「うん。私もリョウガって呼ぶからね」
そう言ってマリスが食事を再開したが、よく食うな本当に。後でしっかり支払えるんだろうな。ここは俺が立て替えるが、後々支払いを嫌だといっても必ず取り立てするけどな。
「リョウガか」
ふと通りがかった男が声を掛けてきた。ダリバだった。
「そっちの子は?」
「私はマリス。リョウガの仲間よ」
「仲間? そうか新しいパーティーを組んだんだな」
「まぁ成り行きだけどな」
「そうか、良かったなじゃあな」
ダリバがそう言い残して出ていった。
「今のは?」
マリスが誰? といった顔で聞いてきた。
「ダリバという先輩冒険者だ。俺が最初にギルドに登録した時に一緒に依頼に挑んだんだ」
「そうなんだ。今は一緒じゃないんだね」
「俺に冒険者の資質があるか試すために組んだまでだからな」
その後飯を食いに行ったりはしたがそれだけだ。
「そう。でも何か言いたいことがありそうだったよね」
マリスがそう言って首を傾げた。俺もそれはわかってたが結局何も言ってこなかったわけだしな。本当に必要なことなら後々言ってくるだろうさ。




