第48話 殺したい奴隷と殺させない暗殺者
俺が手枷足枷を砕いて壊すと女の目つきが変わった。やれやれ、外した途端これか。
「ゴイス――」
「やめろ。殺すぞ」
「――ッ!?」
女の動きが止まった。こいつは気配に敏感なようだな。わずかな殺気にもよく反応してくれる。
「お、おいおいいきなり物騒だね。私は本当にもう逆らうつもりはないよ」
「お前に言ったんじゃない。この女にだ」
俺は奴隷の女を見ながらそう言ってやった。奴隷の女は何も言えずにいる。
「いや、だとしても物騒なことに変わりはないだろう? いくら奴隷といっても理由もなく殺したら罪になるんだからねぇ」
スカーレッドが奴隷に関する事実を教えてくれた。そうだったのか。うっかり殺して無くてよかった。
「別に何もなく言ったわけじゃない。その女、明らかにゴイスに襲いかかろうとしていたからな。釘をさしたんだ」
「へ? 襲うってそんなの事前にわかるものなのか?」
「気配で何となくわかる」
「あんた本当にとんでもないね……」
スカーレッドが呆れていた。俺にとって気配を読む事など出来て当然だからな。
「ご主人様に逆らう気か! 貴様!」
ゴイスが奴隷の女に怒鳴りつけているな。それに対して奴隷の女はゴイスを殺気立った目で睨みつけていた。まぁこの殺気は襲いかかるタイプのではないから大丈夫か。
「黙れ! 私を騙してこんな首輪付けておいて!」
女が叫んだ。どうやら奴隷になったことは女にとって不本意だったようだな。
「うるさい! もう許しておけんぞ! 忘れたのかその首輪をしている限りわしの意思で――」
「おい。もう黙れ」
「ヒッ!」
奴隷の女もその主人も一々殺気だってわずらわしい。鬱陶しいからゴイスには強めに殺気を当てておいた。何をしようとしたかはしらないがこれで暫くは喋る気力もわかないだろう。
「ご、ごめんなさいごめんなさい、殺さないでわしを殺さないで」
「すげぇ震えてるよ! あんた一体何したいんだい!」
「面倒だから強めに殺気を当てただけだ」
「いや、殺気を当てただけでこんな風になるか普通?」
スカーレッドが目を丸くさせていた。まぁこれも暗殺者として生きてきたが故だろうな。いいか悪いかはわからないが。
「なんでだよ。こいつに勝手に奴隷にされて、こんな屈辱を受けて黙ってろっていうの!」
奴隷の女が叫んだ。不満そうだな。
「それはそっちの都合だろう。俺は仕事でこいつを生け捕りにしないと駄目なんだ。それでも殺したいっていうなら俺がギルドに引き渡してからにしろ」
不満そうな女に俺の考えを伝えてやった。これで納得出来たかは知らんが。
「……お前の仕事が終わったらこいつを殺していいのか?」
「好きにしろ。お前の責任でやるなら俺の知ったことじゃない」
「おいおい、随分とあっさり言うもんだね」
スカーレッドが顔を引きつらせていた。そう言われてもな。仕事が終わってからのことまで面倒見切れないぞ。
「……わかった。とりあえずあんたに従うよ。ついていけばいいのか?」
「あぁ。そうだな」
「そういえばあんた名前はあるのかい?」
質問に俺が答えるとスカーレッドが女の名前を聞いた。まぁ名前を知っておいた方が呼ぶ時に楽かもしれない。
「私はマリスだよ。そっちは?」
「俺はリョウガだ」
「私は知ってるかもだけどスカーレッドだよ」
こうして互いの名前を教えあったところで俺たちは街に足を進めた――




