第43話 暗殺者にとっては鬱陶しいだけ
途中で蜘蛛みたいなのに寄生された連中は倒した。死体から冒険者証だけ回収し更に先に進む。
その間もデカいカブトムシやら巨大蝙蝠やらゾンビみたいな冒険者の成れの果てやらを倒している内に目的の薬草が生えている場所を見つけた。
「そういえば他に冒険者はいないんだな」
この依頼を受けてるのは別に俺だけじゃないと思うが、あまりかち合わないな。その代わりやたら骨やら死体やらは見つけたが。
「まぁいいか。とりあえず採取しよう」
薬草の側にいき採取を始めた。すると地面から口付きの触手が生えてきて俺に襲いかかってくる。
「うっとうしいな」
そんな触手どもを排除しながら薬草採取を続けた。依頼書によると三十束必要とあったが、ここだけど十束が限界か。
とりあえず次のスポットを目指す。ガサゴソと音がしたかと思えば動き回る樹木の群れが姿を見せた。
これも魔物の一種か。樹木の中には人間が取り込まれていた。まぁもう完全に樹木と一体化しているようだから手遅れだろうな。
「燃やしとくか」
口から吐いた炎で燃やし尽くした。山火事にはならないよう調整はさせてもらった。
しかし随分と邪魔する魔物が多いんだな。危険だとは思わないが実に鬱陶しい。
「ひぃ! 助けてくれぇぇえぇえ!」
「いやぁ誰か! 誰かぁ!」
上空から声が聞こえた。見ると怪鳥に捕まった男女がいた。冒険者だろう。
「間に合わないな」
俺はすぐに無理だと悟った。更に巨大な怪鳥がやってきて男女を捕まえた怪鳥ごと喰らったからだ。
「しっかり食物連鎖が出来上がってるな」
どうやら魔物の間でも弱肉強食が成り立っているようだ。まぁそりゃそうか。
犠牲になった二人は気の毒だがそういう覚悟を持って依頼に挑んでるだろうから仕方ないな。
そんなことを考えていたら巨大な怪鳥が俺に気がついて急降下してきた。
「やれやれ」
腕を解放し跳躍した後、怪鳥の背中に乗り胴体を貫いた。怪鳥はそのまま森に落下。木々をなぎ倒しながら地面を滑っていった。
「お、丁度よかったな」
デカい怪鳥が止まった先に目的の薬草の群生地があった。これだけあれば依頼に必要な量は足りるな。
俺はついでに怪鳥を解体し貴重そうな羽や肉を魔法の袋に詰め込んだ。薬草も手に入れたしこれでとりあえず一つ依頼は達成だな――
さてと森の外に向かうか。と言ってもこのまま引き換えしても面倒な魔物の相手をしていかないといけない。別に来た道を引き返さないと行けないというルールもないからな。
だから俺はとりあえず森から出ることを優先して帰路についた――
◇◆◇
「全く。最近になって監視の目が厳しくなってきた。実にやりにくい」
街道からそれた場所で一人の商人が愚痴っていた。お腹の出た肥えた商人であり、頭にはターバンが巻かれていた。
体には高価そうな生地で仕立てたローブを羽織っている。
「だから今運んでる奴隷が一匹だけなのか?」
商人の側で控えていた男女の内、男の方が声を掛けた。厳つい顔で屈強な戦士といった見た目をしていた。男は脇にハルバートを立て掛けていた。
「それもあるが、今回の奴隷は特別なのさ」
「特別? 言われてみれば角が生えてたねぇ」
もう一人の女が今度は奴隷について口にした。赤毛の女だった。手には鞭、腰にはベルトが巻かれナイフが何本も装着されていた。
「そうだ。今回の奴隷は魔族と人間との間に生まれた亜人。半魔だからな。しかもかなりの上玉のメスだ。これは高値で売れるぞ」
そう言って下卑た笑みを浮かべる商人。その様子を呆れたような目で女が見ていた。
「チッ。奴隷が一人じゃこっちにお溢れはなしか」
男の方が愚痴るように言った。
「そう言うな。上玉のメスを捕まえられたのは運が良かったんだ。それに魔族と人間の血を引く半魔なんて滅多にいないし、私も初めてだぞ」
「ふ~ん――」
気のない返事をしつつ女が馬車の中を覗き込んだ。手枷足枷に加え奴隷の首輪を嵌められた少女がギラついた目で女を睨んでた。
(おぉ、こわ――)
奴隷として捕らえられた女の瞳は獲物というより狩人のソレだった。こんな状況でも虎視眈々とここから逃げる手段を、いや、なんなら奴隷商を含めて全員を殺す方法を考えているかも知れない――




