第39話 正当防衛
「生意気な奴だ。そんな態度じゃ俺らもつい殺っちまうかもしれないぜ?」
「ヘヘッ。もう切り刻んでから奪っちまおうぜ」
「面倒だからな」
「お前らも血の気多すぎだろう」
男どもが頭の悪そうなセリフを吐きながら刃物をチラつかせていた。その内の一人がダリバに手を伸ばしたので俺は軽く蹴りをいれてやった。
すると男は派手に吹っ飛び近くの壁に激突して気を失った。
「なっ! て、てめぇ!」
「ヒック。ヘヘッ、チンピラ如きが俺らに手を出そうなんていい度胸ってことだよ」
チンピラ連中が怯んだところでダリバが口を開いた。そして肩を貸していた俺から離れて連中と向き合う。
「リョウガぁ、俺も先輩冒険者としていいところ見せてやるぜ。ヒック。俺らを狙うってことは殺されても文句は言えねぇよなぁ?」
「は? 何だこいつ。お前みたいな酔っ払いに俺らがやられるかよ!」
強気な態度でチンピラ連中に言い放つダリバだが、奴らの言うように足もふらついていてどうにも不安が残る。
「うっせぇなぁ、いくぞおらぁああああ――」
ダリバが拳を振り上げて殴りかかろうとしたが――足が縺れて転んでしまった。コレは駄目だな。見ていたチンピラ連中も笑い声を上げている。
「ダリバ後は任せろ」
「うぅ、くそぉ、何か目が回るぜぇ」
「もう休んでろ。それよりさっき殺されても文句は言えないと言っていたがそうなのか?」
「ヒック。当然だ。相手から刃物抜いたんだからな。正当防衛で殺されても、ヒック、文句は言えねぇぜ」
「そうかわかった」
それなら話は早い。俺はそのままダリバを横にして立ち上がった。
「ふん。さっきはちょっとはやるかと思ったが、そんなおっさんとつるんでるようならテメェも大したことねぇんだろうが」
「たまたま一人ぐらい倒せたからって調子に乗るな――」
面倒だから奴らの脇をすり抜けると同時にさっさと済ませた。喋ってる途中のがいたが手刀で首を刎ねたからもう口も開けないだろう。
少し遅れて地面に数個の首が落ちて転がった。胴体だけになったチンピラが傾倒し倒れる。
しかし弱かったな。口だけの連中だった。とは言え、殺しても問題ないのは知ってたがこの後どうしたらいいのか。そこを聞くのを忘れていたが――
「何か騒いでる連中がいると聞いて駆けつけてみたら、一体何があったんだ?」
声がして振り返ると街に来た時に応対してくれた門番がそこにいた。どうやら通報を受けて見回りに来たようだな。
「丁度良かった。こいつらが刃物を持って襲ってきたからな。返り討ちにしたところだ」
「お前、確か今朝の――そうか話は聞いていたが確かに腕前は確かなようだな……」
気のせいか門番の顔が引き攣っている気がした。
「それでそこに寝ているのは?」
「俺の先輩に当たる冒険者だ。酔っ払ってしまっててな」
「そうか。とりあえず話を聞く必要があるな」
そう言って門番がダリバに近づき頬を叩いて起こしていた。門番に聞かれダリバが周囲の状況を確認したが。
「うぉ! な、なんだこりゃ!」
「あぁ。俺が倒したんだ」
「へ? リョウガが、ひ、一人で全員をか?」
驚くダリバに答えると何か目を白黒させていた。
「そうだ。正当防衛なら問題ないと聞いたんだが」
「あ、あぁそれが認められれば確かにそうだがな」
「……」
俺の質問に門番が答えてくれたがダリバは何も言わず難しい顔をしていた。その後詰所につれていかれ事情を聞かれた。
その時はダリバも奴らに襲われたと証言してくれた。嘘を見抜くという魔導具とやらも取り出して調べてもらい嘘がないことも証明された。その後先に気絶していた仲間の一人も問い詰められ強盗目的だったと白状し正当防衛が証明された。
「時間を取らせて悪かったな。今回の件はこちらから冒険者ギルドに報告しておく。特に罪に問われることはないからそこは安心してくれ」
「あぁ。助かる」
そして俺たちは詰所を離れ宿に戻った。その途中ダリバは一言も喋らなかった。
「じゃあ俺は部屋に戻るから」
「あぁ……」
俺が声を掛けると短い返事だけ残してふらつく足取りでダリバが部屋に戻った。
何か様子がおかしい気もしたが俺も部屋に戻りベッドに横になった。そういえばこっちの世界でまともにベッドで寝るのはここが初めてかもな――そんなことを思いつつ俺は眠りについた……。




