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無能だとクラスで馬鹿にされてた俺、実は最強の暗殺者、召喚された異世界で見事に無双してしまう~今更命乞いしても遅い、虐められてたのはただのフリだったんだからな~  作者: 空地 大乃
第四章 暗殺者の選択編

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第188話 狙われたエンデル

「さてさて。色々と大変なようですが――皆さん。ここはひとつ、提案をさせていただきましょうか」


 頭上から声が降ってきた。

 同時に、影が落ちる。


 空から舞い降りたそれは、漆黒の肉体を持つ巨躯の化物だった。

 肌は岩のように硬質で、筋繊維が鎖のように絡み合っている。頭にはねじれた角が二本、下顎からは猛獣じみた牙が突き出ていた。

 鬼――そんな言葉が脳裏をよぎる。俺たちも鬼と呼ばれたが、それとは別種な物だ。


 だが、俺たちに話しかけてきているのはそいつではない。

 化物の肩に乗った白衣の男だ。


 癖のある白髪に、縁なしの丸眼鏡。細身で、見るからに戦士というより学者。

 だが問題は、見た目ではない――その“気配”だ。

 確かに実体はあるのに、どこか虚ろ。存在の輪郭が曖昧だ。

 これは……まぁ、嫌な予感しかしない。


「突然やってきて提案とは、ずいぶん勝手だな」

「まぁまぁ。皆さんにとって悪い話ではありませんよ。――ほら、そこで怯えている少女をこちらに渡してください。そうすれば全員、無事に――」


 その瞬間、俺の中で“線”が切れた。

 言葉の続きを待つことなく、俺の刃は男の首を断ち切っていた。


 今の俺の護衛対象はモンドとエンデルだ。こいつがエンデルを狙っている以上、殺す以外の選択肢はない。


「……やれやれ、いきなり首を飛ばすとは、酷い人ですね」


 白衣の男が平然と口を開いた。

 切断されたはずの首が、霧のように形を保ちながら喋っている。


「――やっぱりか。お前、本体じゃないな?」


 納得だ。

 感触が違った。切ったのに、生身の反応がない。血も流れず、手応えも軽い。

 幻影系、もしくは遠隔の肉体投影ってところか。


「おいリョウガ、なんなんだこいつは!」

「あ、忘れてた」

「ちょっ、何を――!」


 反射的にガロウの顔面へ手刀を放ってしまった。

 いつの間にか当然のように横にいたからな。


「何って……殺すつもりだが?」

「いやいや! 状況見ろ! 今そんなことしてる場合じゃねぇだろ!」


 言われてみれば確かにそうだが、先に喧嘩を売ってきたのはそっちだろ。


「やれやれ……じゃれ合いは他所でやってもらえますかね」


 白衣の男がため息をついた瞬間、天が白く光った。

 次の瞬間――雷撃。

 轟音が地を揺らし、俺とガロウは同時に後方へ跳ぶ。


「実体がないくせに、魔法まで使えるのか」

「えぇ、当然です。私、天才ですから」

「自分で言うなよ。いけすかねぇ奴だな」


 ガロウが刀の柄に手をかけ、舌打ちした。


「ふぅ……どちらにせよ、交渉は決裂ですね。仕方ありません。――やってしまいなさい、“ジャキ”」


 白衣の男の言葉と同時に、巨体の化物が咆哮を上げた。


『グォオオオオオオオォォォオッ!』


 地が震え、砂塵が舞い上がる。巨腕が振り下ろされ、大地がえぐれた。


 速い。見た目以上に、反応速度が高い。

 ただ、速い“だけ”だ。避けるのは容易い。


「何がなんだか……とにかく私たちもやるよ! クルス、魔法!」

「わかりました――加護の光――ブレス・オブ・ガーディアン!」


 クルスの詠唱と共に淡い光が降り注ぎ、俺の筋肉が一瞬にして軽くなる。

 視界の輪郭が鋭くなり、神経が研ぎ澄まされていくのがわかる。支援魔法か。悪くない。


「おい、俺たちにはねぇのかよ!」

「よく言えたもんだね。最初はリョウガを殺しに来たくせに」

「だからそれどころじゃ――待て、なにか来る!」


 ガロウが刀を構えた瞬間、俺も同じ違和感を察した。

 足音。大量の足音だ。腐臭を伴って近づいてくる。


「仕方ない。この巨体は俺が相手する。後方は任せる」


 俺が拳を受け流しつつ発すると、背後の扉が爆ぜた。

 中から大量のマタンゴが湧き出すように現れた。


 白衣の男が愉快そうに笑う。


「アハハハッ。賑やかになってきましたねぇ。いい眺めです」

「あぁ、なるほど。あのマタンゴはお前の仕業か」

「さてどうでしょうかね」

  

 白髪の男が肩をすくめて答えた。これは認めてるのと一緒だな。


「つまり街で暴れてる魔獣もお前が放ったのか」

「いえいえ。そちらは私とは関係ありませんよ? でも……結果的に仕事がしやすくなりました」


 とぼけた顔で笑う。魔獣には関与してないか。


「お前ら、エンデルから目を離すな!」

「は、はい、会長!」

「了解!」


 イザベラが剣を振り抜き、胞子の霧を切り裂いた。

 モンドの護衛たちはエンデルを中心に円陣を組み、必死に守りを固める。


「ウドン! マタンゴを狩れ!」

「了解ッ!」


 ウドンが咆哮と共に腕を伸ばし、数体をまとめて叩き潰す。

 群れが崩れ、ぬるりとした体液が地を覆った。悪臭が漂うが、戦況は悪くない。


「よし……仕方ねぇ。こっちは俺が手伝ってやる!」

「別に頼んでないぞ」

「だったら勝手にやってやるよ!」


 ガロウの言葉と同時に、黒い巨体が咆哮を上げた。

 上空が歪み、化物の口が大きく開く。中で黒いエネルギーが渦を巻いている。


「おいおい……嫌な予感しかしねぇな」

「尻尾を巻くなら今のうちだぞ」

「は? 誰が逃げるか――」


 ガロウの言葉を遮るように、黒球が放たれた。

 空気が焼け、地面が削れ、轟音が耳を突く。あの速度、避けきれない者は確実に蒸発する。


「そこまで言うなら……譲ってやるよ」

「は? おま、ちょっ――!」


 俺はガロウの首根っこを掴み、黒球の軌道上へ放り投げた。


「テメェざけんなっ!」

「何だ。そんなもんも切れないのか?」

「クソがっ――抜刀昇華ばっとうしょうか――極一閃!」


 雷鳴のような音が響いた。

 閃光が走り、黒球が真っ二つに割れた。

 割れた断面から爆風が吹き出し、黒煙が渦を巻く。


「……ふぅ。やっぱり、まだ上があったか」


 俺は目を細め、肩を鳴らした。

 ガロウの実力は確かだ。

 少なくとも“弾除け”としては悪くない。


――さて、こっちも少しは動かないとな。

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