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無能だとクラスで馬鹿にされてた俺、実は最強の暗殺者、召喚された異世界で見事に無双してしまう~今更命乞いしても遅い、虐められてたのはただのフリだったんだからな~  作者: 空地 大乃
第四章 暗殺者の選択編

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第187話 会場の外での再会

 薄暗い通路の先に、小さな扉が見えた。

 大人ひとりがやっと抜けられるほどの狭さだ。


「ここから会場の外に繋がっている」

「それなら俺が開けよう」


 閂を外して押し開けると、ひやりとした風が通路を駆け抜けた。土と草の匂いを含んだ風――戦場の外の空気だ。


「少しは気が紛れますね」

「あぁ。妙に暑苦しかったからね」


 イザベラの言葉に頷く。

 俺にとっては気温など誤差の範囲だが、普通の人間には息苦しさすら感じる閉塞だったろう。


「――行こう」


 こんな狭い通路に長く留まるのは愚策だ。

 マタンゴが追ってこない保証はない。早いに越したことはない。


 俺を先頭に、イザベラ、クルス、アルの父親、モンド、そしてエンデルが続く。

 全員が外へ出た、その瞬間――


「ようリョウガ。やっと会えたな」


 聞き覚えのある声。

 視線を向けると、目元に傷を持つ男と、その隣に立つ巨漢。

 以前の街で大道芸を披露していた、あの二人――ガロウとウドンだ。


「リョウガ、知り合いなのかい?」

「一度会っただけだな」

「そう冷てぇこと言うなよ。お前が俺を熱くしてくれたんだからよ」

「熱くって……リョウガ、お前……」

「妙な勘違いをするな」

「いろんな愛の形があってもよいと思いますよ」

「クルス、お前も大概だな」

「リョウガさんが、あ、あの方と、で、でもお二人とも男で、あ、あぁ……」

「違う。そうじゃない、落ち着けエンデル」


 エンデルが両頬を押さえ、顔を真っ赤にして瞳をぐるぐるさせている。完全に勘違いだ。


「何の用か知らんが、こっちはお前たちに構ってる暇はない」

「そう言うなって。俺にはあるんだよ。リョウガ、俺とやり合え」

「……正気か? こっちはマタンゴに追われてる。外も魔獣だらけだぞ」


 俺一人ならどうにでもなる。

 だが今は依頼の最中――依頼主を守るのが優先だ。


「安心しな。少なくとも魔獣の邪魔は入らねぇ」

「なんでそんなことが言える?」

「なんでってそりゃお前――」


 一瞬、ガロウの視線がモンドに流れた。

 短い刹那、目と目が交わる。何かを知っている顔だ。だが今はまだ、その意味を問う場面じゃない。


「何だ、私に何か用か?」

「いや、別に。……まぁいいや。とにかく俺とやろうぜ、リョウガ。早く戦いたくてウズウズしてんだ」

「断る」

「そうかよ。だったら――強制だ!」


 言葉が終わると同時に、ガロウが地を蹴った。

 距離が一瞬で詰まる。初速が速い。前よりも格段に研ぎ澄まされている。


「抜刀!」


 閃光。

 抜かれた刀が俺の首筋を正確に狙う。

 空気を裂く音が遅れて届いた。殺意に一点の淀みもない。

 俺は上体を反らして回避する。


「そうか。つまり――死にたいってことか」

「そうこなくちゃな。殺り合おうぜ、リョウガ!」


 殺気をぶつけても怯むどころか歓喜する。典型的な戦闘狂。面倒なタイプだ。


「抜刀昇華――千閃!」


 風が鳴り、刀が閃光の帯を描いた。

 音速を超えた抜刀術。

 一瞬で千の斬撃が俺の身体を包む。

 金属音と風圧が混じり、視界が光の線で埋め尽くされた。


「なるほど……前に見た時より鋭いな」

「リョウガ、アレを喰らっても平気なのかよ!」


 イザベラの声が耳朶を打つ。


「全部避けたのですか!? 凄い……」

「違う。感触でわかった。確かに大半は避けたが――八発、当たったはずだ!」


 ガロウが叫ぶ。その通りだ。

 九百九十二は避け、八だけ受けた。

 その八発を殺すため、俺はほんの少しだけ腕を“解放”した。

 袖に隠れて見えないが、今の腕は筋肉が隆起し、皮膚の下で脈が爆ぜている。


「おもしれぇ……なら、俺も奥の手と――」

「やぁあああぁっと! 見つけましたよぉ!」


 奇声にも似た声が空から降る。

 次の瞬間、巨大な影が落下し、地面が爆ぜた。

 土煙が舞い、地鳴りが周囲を揺るがす。


「やれやれ……魔獣が来ないんじゃなかったのか?」

「いやいや! 俺が聞きてぇよ!」

「兄貴、こいつ……少々ヤバそうですよ」


 ウドンが一歩退く。

 その言葉通り、現れた“それ”はただの魔獣じゃない。

 空気が重くなる。皮膚の裏を、嫌な圧が這い上がってくる。


 全くこいつらだけでも面倒だって言うのに。


 俺は静かに息を吐き、地面を踏みしめた――。

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