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無能だとクラスで馬鹿にされてた俺、実は最強の暗殺者、召喚された異世界で見事に無双してしまう~今更命乞いしても遅い、虐められてたのはただのフリだったんだからな~  作者: 空地 大乃
第四章 暗殺者の選択編

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第185話 紅眼の戦鬼

 マリスは血の湖と化した路地へ、一歩踏み込むやいなや跳びかかった。


「うぉおぉおおおお!」


 握り締めた拳が棘だらけの肌を打つ。刹那、皮を裂く感触と同時に自身の拳もズタズタに裂け、鮮血が飛沫になった。


「なんだァ? てめえも死に急ぎか」


 嘲るシャークの返しの拳──鈍い衝撃が頬骨を揺らし、マリスの身体は石壁に弾かれた。


 だが、その紅い瞳は消えない。


 怒りが閾値を超え、戦鬼族(せんきぞく)特有の暴走が発動する。吐息は白く湯気を上げ、全身の血管が脈動した。


「────ッ!」


 言葉にならぬ咆哮とともにマリスが襲い掛かる。瞳が紅く染まり、拳、蹴り、肘、膝と嵐のような連打が棘の装甲にめり込み、削り、粉砕してゆく。


「効かねぇって言ってるだろうがッ!」


 シャークは腕で顔を庇いながら殴り返し、互いの拳が火花を散らした。鮫肌は確かに硬い。だが削れた鱗の下から滲む血が、徐々に男の表情を険しく変えていく。





◆◇◆


「キィキィ!」


 戦いを遠巻きにしていた子猿が、ネイラの袖を引きながら焼け落ちた店の一角を指さした。


「……あの中に何か?」


 ネイラは蛇腹剣の柄を握り直すと、瓦礫を蹴散らして薄暗い店内へ滑り込む。倒れた棚の陰──怯えて泣くアルを見つけ、抱え上げた。


「生きてたのね」

「ウキィ!」


 ネイラが呟くと子猿がアルの下へ跳ねていく。


「もう大丈夫。目を閉じて休んでていいわよ」

「ありがとう、お姉ちゃん……」

 

 よっぽど疲れていたのだろう、すぐに寝息を立てるアルを優しい目で見届けるネイラ。


 その瞬間、背後の血溜まりに波紋が走る。何者かの足跡──。


「ウキィ!」


 子猿も気配を察したのか警告の声を上げる。


「出てきなさい。隠密は趣味じゃない」


 ネイラは蛇腹剣を弾き伸ばし、波紋の中心へ突き込んだ。空気が裂け、色彩が剥がれ落ちると、カメレオンのような擬態を纏った男レオが悲鳴をあげて倒れた。





◆◇◆


 路地では、マリスが流血をものともせず腕を振り抜いていた。拳の一撃ごとに鮫肌が砕け、肉が潰れる音が響く。


「チッ、だったら──喰ってやるッ!」


 シャークの顎が異様なまでに開き、並んだ歯が獲物を求める。

 咄嗟にマリスは両掌で顎を掴み、懸命に押し返した。


「うおおおおおッ!」


 骨がきしむ音。牙が砕け散り、顎関節が粉砕音とともに崩れる。


 悲鳴を上げ、ぐらりと膝を折ったシャークへ、マリスは打ち下ろしの拳を叩き込む。

 肉が潰れ、棘が散り、男の巨躯が地面に沈黙した。


「シャークがやられるなんてマジかよ!」


 残された最後の盗賊ラットは鼠の群れを操り、闇へ紛れようとする。


「逃がさない!」


 建物から出てきたネイラが伸縮する刃を振るい、ラットの脚を撥ね飛ばした。


「ぎゃぁああ! 脚がぁああ!」


 悲鳴を上げ地面を転げ回るラット。操り手が集中力を欠いたからか、鼠たちは四散し、黒い波となって溝へと消えた。


 戦いが終わった。

 マリスは膝をつき、動かないゴングとパルコの亡骸をそっと抱き寄せた。震える指先が血に濡れ、地面に赤い滴を描く。


「……ごめん……守れなかった……」


 すすり泣く声は、遠くで鳴り続ける鐘の音に掻き消される。

 街を覆う炎の赤と、マリスの瞳の赤──二つの紅が夜を染め上げていた。

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