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無能だとクラスで馬鹿にされてた俺、実は最強の暗殺者、召喚された異世界で見事に無双してしまう~今更命乞いしても遅い、虐められてたのはただのフリだったんだからな~  作者: 空地 大乃
第四章 暗殺者の選択編

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第184話 会場の外に出たマリス

 マリスがオークション会場を飛び出すと、そこには地獄絵図が広がっていた。石畳の大通りを跋扈(ばっこ)する魔物と魔獣、逃げ惑う市民の悲鳴、割れた窓から噴き出す黒煙──街の秩序は完全に崩壊している。


「こんなに……!」


 足もとでは折れたランタンが油をこぼし、炎が転がった荷馬車を包んでいた。焼けた木の匂いと鉄臭い血のにおいが入り混じり、吐き気を催すほど濃い。


「た、助けてくれ!」

「来ないでっ! お願いだから──」

「うわぁあっ、俺の脚が……!」


 視界の端だけでも、牙に裂かれ肉片と化す人影がいくつも見えた。護衛の冒険者たちは必死に応戦しているが、敵の数は桁違いだ。鮮血を浴び、盾ごと噛み砕かれる者もいる。治療を試みようとしている者もいたが、対応が間に合っていない。


 それでも彼女は走った。アルを見つけ出す。それだけが胸の支えだった。だがその道を、体長三メートルはあろう巨大蜥蜴が親子めがけて跳躍する──。


 マリスは迷わず飛び込み、脚に魔力を纏わせた蹴りを叩き込んだ。蒼白の衝撃波とともに蜥蜴は空高く弾かれ、頭上を旋回していた怪鳥に喰われて消える。魔物同士の捕食が成立したのだ。


「ありがとうございます!」

「礼より安全な場所へ! 急いで!」

「は、はい!」

「──お姉ちゃん、ありがとう!」


 お礼を述べる少年の小さな手を握り返す──その瞬間、地面を割って巨大ワームが出現し、親子を丸呑みにしたまま土中へ消えた。残されたのは幼い子の小さな掌だけだった。


「何なのよ……こんなの、あんまりじゃない!」


 マリスは拳で石壁を殴りつけ、血が滲んでも叫ぶことしかできなかった。それでも気を取り直し、アルの名を呼びながら瓦礫の路地を駆け抜ける。


「あなた、こんな所で何をしているの?」


 声を掛けてきたのはB級冒険者ネイラ。鎧は傷だらけ、呼吸は荒いが、それでもなお、戦場と化した市街を駆け回っていたようだ。


「ネイラ! レストランにいた猿を連れた男の子、覚えてる? アルって子!」

「ええ、いたわね。それが?」

「会場で逸れたの。探し出さないと!」


 ネイラは周囲の惨状を一瞥し、眉をひそめる。


「冷たいようだけど……この状況で子どもが生き残る望みは薄いわ。探す余裕もないはず。マリス、現実を──」

「それでも探す! ゴングとパルコも動いてるはずよ!」


 食い下がるマリスの背で、猿の甲高い鳴き声が響いた。


「ウキィ! キィ!」


 アルの猿が転がる瓦礫の上を跳ね、マリスの胸に飛び込んでくる。震える指先がある方向を示していた。


「そっちにアルがいるのね?」

「ウキキィ!」

「急がないと!」


 マリスが駆け出す。ネイラも放っておけないと思ったのか後に続いた。二人と一匹は炎と瓦礫の迷路を突き進んだ。


 ──やがて、血の水溜まりと倒れ伏す男の巨体が視界に入る。鮫肌の棘に覆われた盗賊シャークが勝ち誇るように立ち去る背中、その足元には息絶えたゴングの亡骸があった。


「……ゴング?」


 マリスの足が止まる。背筋を凍らせる現実。壁に叩きつけられ砕けた腕、噛み千切られた拳。庇うように広げた両腕は、守るはずだったパルコの姿さえ掴めず、無力を物語っていた。


「お前、何してんのよッッ!」


 怒りに震えるマリスの瞳が、炎の揺らぎを映して燃え上がり、気づけばシャークに向けて飛びかかっていた──。

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