第179話 ゴングと盗賊
「なんだこのおっさん」
「誰がおっさんだ」
盗賊の一人が声を上げるとゴングが静かに言葉を返した。ゴングはそんなやりとりをしながらも相手の様子を確認している。
「こんな危険な状況で強盗行為とはな。一体どういうつもりだ?」
「危険? あぁこの魔獣のことか。だったら俺等にとっては想定内だ」
「そういうことだ。問題ないな」
この状況を気にもとめてなさそうが盗賊たちの反応にゴングが眉を顰めた。
「お前らが魔獣が暴れてることに何か関係あるってことか?」
「さぁな。それよりもまだ隠れてるんだろう? 俺は匂いに敏感だからな」
鼻をひくつかせ小柄な盗賊が言った。チッ、とゴングが舌打ちする。
「アルはここから離れて」
一方で物陰に隠れていたパルコはアルに逃げるよう指示していた。当然アルは困惑しており泣きそうな顔になっている。
「さっきの魔法の効果で貴方の気配は薄まってる。貴方は子どもだからより魔法の効果が出やすい。ここから離れたら恐らく誰かしら冒険者がいるはずだからそこまで逃げて」
「でも、僕」
「アル! 今はこれしか手はないの。大丈夫貴方なら出来る。男の子なんだから」
目線を合わせてパルコがアルに話した。本当はこんな危険な真似したくはなかったが、今パルコも一緒に逃げてはアルも気づかれてしまう。故に苦渋の決断だった。
「どれ、隠れてる奴の顔でも見てみるか」
「させるかよ!」
パルコとアルが密かに話している時、三人の中で一番ガタイのいい男が動き始めた。ゴングはその動きを邪魔するように立ち拳を構えた。
「何だ? 俺とやろうってのか?」
「あぁ、そうだよ!」
ゴングが相手の腹目掛けて拳を放った。腹部にめり込むゴングの拳。だが――
「グ、グウゥゥウウウウアアアアア!」
ゴングがうめき声を上げ拳を引いた。拳は血まみれになっていた。一方で相手の大男は平然とした顔で立っている。
「シャーク相手に素手とはバカな奴だ」
仲間の小馬鹿にしたよう声が聞こえてくる。一体何が起きたのかとゴングがシャークと呼ばれた男を確認すると、シャークの肌が刺々しい鱗のように変化していた。
「どうだ俺の鮫肌は? 俺のスキルはサメに関係した物が多くてなぁ。サメの出来ることなら大体出来るんだぜ」
そう言ってシャークが笑い出す。ゴングは苦虫を潰したような表情になった。
「ラット、こいつは俺が相手しておくから、お前は残りの奴ら燻り出しておけよ」
「仕方ねぇなぁ」
シャークに言われラットが口笛を吹いた。するとどこからともなく大量のネズミが湧きラットの足元に集まりだした。
「可愛いだろう? こいつらは俺の相棒だ。さて残りの奴をあぶり出してやるか」
「必要ないわ。ファイヤーボール!」
物陰から飛び出したパルコが魔法を行使した。火球がラットの足元に着弾し爆ぜた。集まっていたネズミの多くが吹き飛ばされる。
「テメェ、よくも俺の相棒を」
ラットは素早くその場を離れ、爆発から逃れていたようだ。憎悪の目をパルコに向けている。
「三分間の闘争心!」
パルコの姿を認めゴングがスキルを発動した。これによりゴングの戦闘力は三分間限定で強化される。
「サメだかなんだか知らねぇがテメェらなんざ三分あれば十分だ」
「そうかよ。だったら逆に三十秒立っていられたら褒めてやるよ」
怪我をしていることも構うことなく拳を握りしめるゴング。そんなゴングを嘲笑うようにシャークが挑発したのだった――




