第177話 迫りくる魔獣と盗賊
「何だ? 一体何が起きてるんだ?」
「こいつらを警戒して、てわけじゃないわよねやっぱり」
響き渡る鐘の音にゴングとパルコが警戒心を顕にさせた。ゴングは視線を人攫いの連中に向けた。
「お前ら何か知ってるか?」
「し、知るかよ! 俺等はあの女に一泡吹かせられればそれで良かったんだ」
どうやらこの状況に男たちは関与していないようだ。嘘をついている可能性はあったが、狼狽している様子から見るに本当に知らないようではある。
「とにかく一緒に来てもらうぞ。罪は償ってもらわ――」
ゴングがそこまで語ったところで大きな影が眼の前を横切り、かと思えば今そこにいたはずの男どもの姿がなくなっていた。
「ひ、ひぃぃいぃぃぃいい! 助けてくれぇ!」
「何?」
悲鳴が聞こえゴングが見上げると、上空に小型の竜の姿があった。小型とはいえそれは一般の竜と比べたらの話であり、人間と比べれば遥かに大きい。
その証拠に鉤爪には男たちが、更に口にはリーダー格の男の姿があった。悲鳴を上げ続ける男たちだが、その声は肉が裂け骨が砕ける音の後には聞こえなくなっていた。
「あれ、ワイバーンじゃない。なんでこんなところに」
「知らねぇが、今がヤバいってことだけは確かだな」
ワイバーンは鉤爪で捕まえた男どももあっさり引き裂き、空中に放り投げてからバリバリと喰らってしまう。この凶悪な竜から見れば人間など腹を満たす為だけの餌でしかない。
「餌に夢中になっている間に逃げるぞ」
ワイバーンは残った男たちを喰らうのに集中しているようだった。それであれば無理して相手する必要はないとゴングは判断したのだろう。
「そうね」
「坊主、大人しくしてろよ」
「ワッ!」
パルコが頷いた後ゴングがひょいとアルを抱え上げた。アルが驚きの声を上げるもすぐに大人しくなった。街に起きている異様な状況を察したからなのかもしれない。
ゴングとパルコはその場を離れた。ワイバーン相手ではあまりに分が悪くこの場を逃げるのが正しい選択だ。
だが往来に出て二人の顔色が変わった。
「ひいぃぃいい! やめろやめてくれぇええ!」
「いやぁ離れて離れてよぉおお!」
「やめて私の子どもを食べないでぇ! ヒッ、いやぁああ!」
街中がパニックに陥っていた。理由は明白だった。数多の魔獣が跋扈しており人々は魔獣に襲われ逃げ惑っていたのだ。あたりでは火の手も上がり逃げ遅れた人々が次々と魔獣の餌食になっている。
「ひ、酷い。何よこれ」
「俺が知るかよ。とにかく迂回していくぞ!」
オークション会場まで直進していくのは無理があった。広い道には多くの魔獣が鎮座し次の餌を今か今かと待ちわびている状態だ。
「こっちだ!」
ゴングが逆側の路地を指差し走った。パルコも後からついていく。
「希薄な影は警戒心を緩め逃げ道を繋ぐ――ハイドライト」
パルコが魔法を行使した。すると三人の体が一瞬だけ淡く光った。
「これで気配は薄まった筈よ。魔獣からも逃げやすくなった筈」
「それはありがたいね」
ゴングがアルを抱えたまま走り、その後ろに続くパルコ。だが――
「や、やめてくれ! 金はいくらでも払うから」
「そんなのは当然なんだよ。ま、始末してから奪えばいいことだ」
細い路地の先、右に分かれる道が見えたがその方面から怪しい声が聞こえてきた。ゴングたちは走るのを止め、そっと覗き込む。そこには三人の男と首を切られた被害者の姿があった。
殺された男はいかにも貴族といった身なりをしており男どもは死体から金目の物を漁っていた。
「この状況で盗賊行為かよ」
「ゴング大丈夫?」
「――相手の力量も読めないしな。このまま逃げて」
「臭うねぇ。臭い臭い、俺の鼻が言ってるぜ。そこにネズミが三匹隠れてるってな」
盗賊の声が聞こえた。どうやらゴングたちに気がついたようだ。チッ、と舌打ちしゴングはアルを下ろして自分から盗賊たちの前に躍り出た――




