第171話 オークション開催
「さぁ続いてはこちら素材としても人気の高い人魚の鱗でございます。スタートは金貨十枚からです!」
「金貨二十枚だ」
「それなら私は三十枚よ!」
「三十枚なら三十五枚だ」
「金貨五十枚だ」
「百枚で!」
オークションが開始され会場内に熱のこもった声が飛び交う。この世界の各地から様々な商品が出品され次々と落札されていった。
「これは凄いな。まさかこれほどまでとはね」
イザベラも驚いたように周囲を見ている。オークションでは大金が飛び交う。その光景に圧倒されているようでもあった。
「なんだか異様にも思えるね。全員が目の色変えて競い合ってるみたい」
「それは間違いないだろうな。勿論ここに来ている誰もが目的の品物を入手するのに熱くなっているが、落札までのやりとりを楽しんでいるところもある。相手よりも高い金額で落札することに悦びを覚える者も多いだろう」
マリスの疑問に答えるようにモンドが言った。確かにそういう一面もあるだろう。結果も大事だがそれまでの過程を楽しんでいる者も多いはずだ。
「さぁ次の品はこちら。ミズムーシナッオールです。金貨五十枚から!」
「金貨百枚だ!」
「こっちは二百五十枚だ!」
「三百枚!」
手を上げている中にはマリスと話していた男もいた。しかし値がどんどん釣り上がるな。
「お前は手をあげなくていいのか?」
「リョウガ結構意地悪いよね」
俺が問うとマリスが目を細めた。ふむ、薬が欲しかったように記憶してたがな。
「よし! 落札出来たぞーーーー!」
どうやら水虫の薬はマリスと話していたあの男が落札出来たようだな。それだけ欲しかったということか。
「では続いての品はこちらの奴隷となります」
「奴隷……」
奴隷の言葉にマリスが反応した。元から奴隷が出品されるのはわかっていた筈だがやはり気にはなるのか。
「今回は純血に近い珍しい獣人奴隷となります」
首輪を嵌められた奴隷が姿を見せた。純血と言っていたが見た目にはゴツい狼男といったところだ。
「ほう。あのタイプは確かに珍しいな」
「う~ん私は人に近いタイプの方が好きなのだがね」
「男の奴隷か。興味ないな」
「パワーはありそうね。番犬として最適かしら」
獣人奴隷を目にした貴族や豪商が思い思いの感想を口にしていた。マリスは口にこそ出さないが表情は険しい。
「獣人ってあんな獣っぽいのもいるんだねぇ。耳や尻尾だけが獣なだけかと思っていたよ」
「それは人の血が濃いタイプだな。始祖の獣人は寧ろあのタイプだったらしいな」
たまたま近くを通りがかっていたイザベラの疑問に答えるモンド。こっちの世界の歴史には詳しくないがイザベラが言っているタイプは人とまぐわった結果生まれてきたのだろう。
「テメェら好き勝手いいやがって! 俺をペットだとでも思ってるのか! いいか俺を落とすなら覚悟しろ! その喉笛、ギャァアアァアアアァアア!」
奴隷の獣人が周囲に向けて怒りの声を上げるが、その途中で悲鳴を上げて倒れた。
「これは失礼いたしました。ですがご安心を。見ての通りこの首輪の効果ですぐに大人しくさせることが可能です。少々血の気が多い奴隷ですがそれもまた愛嬌とご理解下さい」
司会者の説明を耳にした参加者が楽しそうに笑い声を上げていた。蔑んだ視線を奴隷に向けている者もいた。
「なんであんな風に笑えるのよ。リョウガ何も思わないの?」
「思わない。ルールというのは国や地域で異なる。自分の常識だけで考えても意味はない」
「……そうか」
マリスは不満そうだがそんなことで一々心を乱していたら仕事にならないからな。
その後あの奴隷は金貨六百枚で落札されていた。首輪はサービスらしい。
こうしてオークションは続いていったがモンドはまだ一つも落札していなかった。
「そういえば一つも落としてないな」
「ハハッ、私は目的がハッキリしているからね」
なんとなく思った事を口にした俺にモンドが答えた。余計なものには目もくれないタイプか。
「おやおや君たちは昨日の野蛮な面々ではないか」
ふとそんな声が俺たちの耳に届いた。見るとそこには昨晩レストランで出くわしたシータケの姿があった――




