第168話 オークション当日の朝
「よぉ。朝から精が出るな」
明朝になりゴングが門の前まで行き手を上げた。その視線の先には街中で再会したガーズの姿があった。
「おお、ゴングか。わざわざ来てくれるとはな」
言葉を返しガーズがゴングの側に寄った。
「今丁度休憩を取ろうと思ってたんだ」
「そうか。だったらパン買ってきたから食うか?」
言って紙袋を掲げたゴング。中身の香ばしい匂いにガーズが笑みを深めた。
「悪いな。それなら詰所までこいよ」
「いいのか?」
「俺のダチだって言えば問題ない」
そしてゴングは詰所に案内された。席に座るとガーズが紅茶を淹れてくれた。
「高いもんじゃないがこの紅茶、味はいいんだぜ。パンにも合う」
「悪いな」
そしてゴングとガーズは詰所で朝食を取った。
「流石商業都市だけあってパンも柔らかくて上手いな。その分値段もそれ相応にしたが」
「確かに。ここの物価は他の街と比べると高めだからな。それなりの稼ぎは必要だ」
「ということはお前も随分と稼いでるんだな」
「他よりもちょっと高い程度だよ」
そんな会話をしながら笑い合った。ゴングも同郷の友人と話が出来てどこか嬉しそうだ。
「そういえば結婚するんだったな。改めておめでとうだ」
「ありがとな。それを言いにわざわざ来てくれたのか?」
「ま、そんなところだ。懐かしさもあったがな」
「なるほどな。それでお前はどうなんだよいい人とかいないのか?」
ガーズに聞かれゴングが肩を竦める。
「俺みたいな危険な仕事してる野郎に嫁いでくれる女なんていねぇよ」
紅茶を啜りながらゴングが答えた。
「そうか? 例えばパルコなんてどうなんだよ?」
名前を出されゴングがむせこんだ。かなり慌てている。
「ゲホッ、急に変なこと言うなよ。なんでそこでアイツの名前が出るんだ」
「確かパルコも冒険者になった筈だろう? お前らよく一緒にいたじゃないか。仕事が一緒なら丁度いいだろう」
「何を勘違いしているか知らないがあいつとはただの腐れ縁ってだけだ。そんな気はねぇよ」
「そうか? お似合いに見えたけどなぁ。そういえばパルコは今どうしてるんだ?」
「……何の因果かしらねぇが同じ護衛の仕事を受けてたんだよ。だからあいつもこの街にいる」
ゴングが返答するとガーズがニヤニヤと笑い始めた。
「なんだよ」
「いや、なんでもないさ。まぁ頑張れよ」
「おま、勝手な勘違いしてんじゃねぇよ!」
ゴングが怒鳴った。ただその顔は赤い。
「それでそっちはいつ式を上げるんだ?」
「あぁ。今回のオークションが終わった後で休みを取る予定だ。地元に戻ってから式を挙げて結婚だ」
「そうか。無事に終わればいいがな」
「大規模なオークションだからな。当然それを狙って悪巧みしてくる奴もいるだろう。だが俺たちも勿論働くがゴングとパルコがいるなら安心だな」
そう言ってガーズが二カッと笑ってみせた。
「――買いかぶり過ぎだぜ。世の中には上には上がいるってな。冒険者やってると思い知るぜ」
「お前にしちゃ珍しく弱気だな。まぁ確かに今回のオークションでは最近話題のパトリエも雇われているようだからな。かなりの凄腕だって聞くぜ」
「――まぁそうだな」
ゴングが答えるが頭の中には別の冒険者の姿があった。そして最後の一口を口内に放り込み残りの紅茶を飲み干す。
「お前も結婚するなら彼女を幸せにしてやれよ。それじゃあ俺は戻るぜ」
そう言ってゴングが立ち上がった。そんなゴングにガーズが話しかける。
「お前も結婚式に来てくれよな」
「ま、気が向いたらな」
「そうだパルコも連れてこいよ。待ってるぜ」
「だからパルコは関係ねぇだろうが! たく――話すぐらいはしておくがな」
そう言ってゴングが手をヒラヒラさせて詰所を後にしたのだった――




