第162話 夕食前に着替えた
モンドに食事の事を聞いた後、俺たちは浴場近くの着替え室に案内された。そこに準備された服に着替える必要があるようだな。いわゆるドレスコートという奴だ。
「なんかこう、締め付けられてるようで落ち着かないぜ」
着替え終わったゴングが顔をしかめていた。用意されたタキシードはゴングにとっては少々窮屈なサイズだったようだな。
「あんたムダにデカいから丁度いいサイズがないのよ」
「そうかお前は小さくて良かったな」
「どこ見て言ってんのよ! 喧嘩売ってるの!」
指摘してきたパルコに言い返すゴング。言われたパルコは不機嫌になっていた。パルコはピンク色のドレス姿だな。
「ね、ねぇリョウガ。これどうかな? 変じゃない?」
着替え終わったマリスが姿を見せ聞いてきた。こっちは紫色のドレスだな。随分と胸が強調された作りなようだが変ではないだろう。
「おかしくはないだろう。だけどレンタルだからな。汚すなよ」
「えぇ~……」
マリスが不満そうに口を尖らせた。聞かれたから感想と注意点を述べただけだぞ。
「全くあんたはなってないねぇ。そういう時は嘘でも似合ってるの一言ぐらい欲しいのが女ってもんさ」
イザベラが声を掛けてきた。こっちは真紅のドレスか。
「私もこういう姿はなれませんね」
「そっか? 似合ってると思うぞ」
「……そ、それはどうもありがとうございます。イザベラも、に、似合ってますよ」
クルスが頬を若干紅潮させながら言った。イザベラにしてもいつもと雰囲気が違うのは確かだからな。クルスも思うところがあるのかもしれない。
「いやはや、全員よく似合ってるじゃないか」
「はい。とてもお似合いだと思います。りょ、リョウガさんも素敵だと思います!」
合流したモンドとエンデルは俺たちを褒めてきたな。エンデルは白いドレス姿だ。
その後、モンドの案内で俺たちはホテルのダイニングに向かうことになった。二階に存在するダイニングは広々としており設置されたテーブルには様々な料理が並んでいた。
「ビュッフェスタイルか」
「はは、よくご存知で。ここのシェフは腕利き揃いですからな。味は間違いないので好きなだけ料理を楽しむといい」
俺の発言にモンドが感心しつつ並んだ料理について語った。
元の世界では別に珍しくもないがこっちだとホテル自体が物珍しい物だ。ましてやビュッフェ形式などそうそうお目にかかれないのかもしれないな。
だからこそ俺が知っていたことに感心したのかもしれない。
「嘘! ここにある料理好きに食べていいの!?」
隣に立っていたマリスが驚きの声をあげ目を輝かせた。恥ずかしいから涎ぐらいふいてほしいところだな。
「立食って奴かい。そういうのがあるってのは知ってたけど実際味わうのは初めてだねぇ」
「私は過去に一度だけ。ただもっと小規模でしたね」
イザベラもビュッフェ形式を目にしたのは初めてなようだ。マリスほどでは無いにしろ興味津々といったところか。
一方でクルスは経験済みなようで落ち着きはらっている。
「お、おいおい、どれでもっていうけどよ。俺はマナーとか全然詳しくないぞ」
「そうね――とりあえず手掴みでとって貪るような真似はやめた方がいいわよ」
「それぐらいわかるわ! パルコ、お前俺のことを馬鹿にしてるだろう?」
ゴングとパルコのそんなやり取りも聞こえてきた。
まぁ近くに皿もあるわけだからな。流石に手掴みで食う奴はいないだろう。
「モグ、あ、リョウガこれ美味しい!」
「…………」
マリスが齧った跡のある骨付きチキンを手にしながら戻ってきた。前言撤回だな。
まさにいま目の前にそんな動物みたいのがいたぞ――




