第155話 往来で襲われる一行
「やれやれ。まさかこんなデケェ街でバカやってくる冒険者がいるなんてな」
「同じ冒険者として恥ずかしい限りですよ」
ゴングとクルスが呆れ眼で言った。四人とも同業者であるにも関わらずやってることはそこらのチンピラと変わらないわけであり、その点を批難しているわけだ。
そんな二人の言葉に苛立ったのか、リーダー格の男が睨みつけながら口を開いた。
「おいてめぇら舐めた口きいてんじゃねぇぞ?」
「別に舐めてねぇよ。ただ実力差もわからないほどアホだなって思っただけだ」
「そうですよ。そんな脅し文句だけでどうにかなると思っているんですか?」
相手が凄んでみせても意に介さない二人に男が舌打ちをした。だがそれは恐怖からのものではなく苛立ちによるものである。
「もういいから力尽くでやっちゃおうよ」
「確かにそれが一番手っ取り早いな」
「数はこっちの方が上だしさっさと決めよっか――」
杖持ちの女が口にした直後だったマリスが加速し肉薄、女の顔に掌底を叩き込んだ。
「グベッ!?」
情けない声を上げ杖持ちの女が無様に地面を転がった。仰向けになった女は目を回して倒れており起き上がりそうにない。
「これで人数は一緒だね」
「テメェ!」
「ハハッ、よくやったなマリス」
そう言って拳を鳴らすゴング。一方でクルスは戦いが始まると予感したのか、援護の為の詠唱を唱え始めた。
「我が言葉は勇気を与え鋼の心を持って邪なる者を打ち砕かん――【ブレイブハート】!」
魔法を行使するクルス。これによりゴングとマリスは体の奥から力が漲るのを感じ取っていた。
「これでもう負ける気はしねぇぜ!」
ゴングが狙ったのは四人の内の男二人。リーダー格の男は剣を構え、もう一人は弩でゴングを狙った。
一方でマリスは残った女を叩きに向かった。だが女もやる気なようでありナイフを二本取り出し両手で構えた。
「貰った!」
女の腹にマリスの蹴りが命中した。体がくの字に曲がった女だったがその瞬間姿がかき消えた。
「え?」
「後ろですマリス!」
クルスが叫ぶとほぼ同時に後ろに現れた女がナイフを振るった。通常であれば確実に致命傷を与えられる一撃。
「ハッ!」
「なッ!?」
取ったと思い込んでいた女であったがマリスの身体能力を侮っていたのだろう。マリスの反射神経は人間のソレを凌駕していた。
故にナイフを最小の動きで躱し振り向きざまの裏拳を顔面にめり込ませた。結果女は地面に突っ込むことになるのだった。
一方ゴングはというと、放たれた弩からのボルトを拳で叩き落とし先ずリーダー格の男の鳩尾に拳をめり込ませた。
「グボッ!」
重たい拳の一撃で男の体が折れ曲がる。
「糞が! 【連射】!」
弩持ちが声を上げるとゴングめがけてボルトが連続で発射された。通常この手の弩は一発ずつ装填する必要がある為、連射は不可能だがそれを可能にしているのは恐らくこの男のスキルなのだろう。
連続発射されたボルトの何本かはゴングの体に命中した。ニヤリと口角を吊り上げる男だったがボルトは皮膚を少し傷つけた程度で跳ね返った。
「クルスの魔法に感謝だぜ!」
クルスの魔法の効果でゴングの肉体は強化されていた。おかげでこの程度のボルトでは威力不足であり、ゴングは狼狽える弩持ちとの距離を詰めあっさりと殴り飛ばした。
「これでおわりか」
「伸びろ剣!」
ゴングが勝利を確信したその時、倒れていたリーダー格の男が叫び刃が伸びた。剣が特別だったというよりはスキルによって刃を伸ばしたのだろう。
「危ない!」
「ぶべッ!?」
だが間一髪のところでマリスがゴングを蹴り飛ばした。おかげで伸びた刃は空を切り、ゴングが貫かれることはなかった。ただ別な意味でダメージは受けたようだが。
「ち、畜生が!」
「残念だったわね――」
マリスが跳躍し倒れた男の頭を踏みつけた。男は白目を向き泡を吹いて気絶してしまった。
「危なかったですねゴング。怪我はないですか?」
「あいつから貰った蹴りが一番いてぇよ。たく――」
クルスが手を貸しゴングが立ち上がった。恨みがましい視線をマリスに向けつつもやれやれと後頭部を擦る。
「ま、助かったからな。礼を言っておくぜ」
「仲間なんだから当然よ」
笑いながら近づくマリス。すると何人かの男がマリスたちの下へ駆け寄ってきた。
「お前たち一体何を騒いでいるんだ――て、お前ゴングか?」
「うん? お前はガーズか。そうかこの街にいたんだな」
どうやら駆けつけてきたのはトルネイルの衛兵のようだが、その内の一人がゴングと顔見知りなようであった――




