第154話 親切の裏側
「ふぅ、やっと終わったな」
「思ったより手続きに手間取りましたね」
首をコキコキ鳴らすゴングを見ながらクルスも疲れた顔で同調した。スカーレッドの案内で無事ギルドにたどり着いた一行はそこで道中に出くわした盗賊の件を話した。
その際に切り取った耳も渡したのだが、なまじ懸賞金の懸かっている上に巷を騒がせていた盗賊団だったのが話をややこしくさせた。
どうやらあまりに懸賞金が高額な賞金首だっただけに、虚偽報告も多かったらしくゴング一行も疑われてしまったのである。
「でも結果的に認めてもらってよかったじゃない」
「まぁそうなんだが、だったらさっさと鑑定出来るの準備しろって話だ」
マリスの言うように最終的には認められた。ギルドの鑑定士の鑑定結果で耳が本物と判明したからだ。しかしタイミング悪く鑑定士の仕事が忙しかった事もあり結構な時間待たされたというわけである。
「少しはこの街も見て回れるかと思ってたが、もうそれどころじゃねぇな」
「そうですね。せいぜい食事を摂るぐらいでしょうか」
「食事! だよね私もお腹が空いてたんだ~」
食事と聞いて喜ぶマリス。その流れでどこか探そうかと話す三人だったわけだが――
「お前らこれから食事なのか? だったら俺等が案内してやるよ」
ふと声が掛かり一行が振り返るとそこには四人の男女が立っていた。
「……誰だ?」
ゴングが訝しげに四人に問いかけた。話しかけてきた四人はにこやかな表情を崩さず答える。
「突然で驚いたかい? 実は俺たちも冒険者でね。この都市では長いこと活動しているからここにも随分と詳しくなったのさ」
「そうそう。だから隠れ家的な店も知ってるわよ」
「トルネイルは飲食店も多いからな。その分当たり外れも大きいんだ」
「だから折角だから私たちが案内してあげようと思ったんだよね」
四人の男女がそう答えるとマリスが顔を明るくさせた。
「丁度良かったよね。折角だから案内してもらおうよ」
「……いや断らせてもらう。折角だから自分たちの足で探してみたいからな」
「そうですね。親切心には感謝しますがこちらはこちらで探しますよ」
四人の申し出に好意的なマリスと違いゴングとクルスはあっさりとその申し出を断った。なんで? と疑問のマリスだったが次の瞬間、四人の表情が変化した。
「おいおいこっちは親切心でわざわざ案内してやるって言ってるんだぜ?」
「私たちはここでは先輩よ。ならもっと顔を立てるべきじゃない?」
「全く礼儀のなってない奴らだ。これは迷惑料を貰わないとな」
「そうそう。さっき懸賞金を受け取ってて随分と懐も温かそうだもんね♪」
口調も変化しどう考えても親切心で声を掛けてきたわけじゃないのは明白だった。四人の意図を察したマリスも表情を曇らせる。
「思った通りか。しかしまたあっさり本性を見せたな」
「悪いですがそんな邪な考えを持った連中に払うものなどありませんね」
「親切かと思ったのに騙されたかけたわよ。本当最低!」
声を掛けてきた四人の冒険者に対して拒否感を示す一行。すると四人がそれぞれ武器や杖を構えだした。
「どうやら色々と教育が必要そうだな」
「お前らこんな人通りの多い往来で本気か?」
ゴングが眉を顰めた。彼が言うように現状それなりに人通りが激しい。四人が武器を取り出したのを見て足を止めて注目し始めているのもいるぐらいだが――
「全く依頼が被ったぐらいで勘弁してよ。みんな落ち着きなって」
杖を持った女が大声でそんなことをいい出した。
「うるせぇこっちにも意地があんだよ」
「あの依頼はこっちが先に目をつけてたんだからな」
「本当やめなって~」
白々しくなるような四人のやり取りだったが、それを耳にした通行人は途端に興味を無くしたようであり。
「何だ冒険者連中の喧嘩か」
「全くよくやるわね」
そんなことを口にしながら何事も無いように素通りしていく人々。マリスも目を白黒させた。
「驚いたか? トルネイルはデカい街だ。それだけに冒険者も多いしいざこざも絶えないんだよ」
「良くも悪くも街の人間はそれに慣れちゃってるってわけ」
「武器を取り出そうがそこまで興味はわかないってことだ」
「そういうこと。謝って金を支払うなら今のうちだよ♪」
一向にニヤニヤしながらそう告げる四人であった。どうやら人の多い往来であってもここでは関係ないようである――




