第150話 ネイラとの決着
『あ~~~~っと! 何とここでネイラ選手がギブアップ! これは驚きの展開だ! 突如現れた謎のリョウガ選手まさかの勝利! 一体誰がこの結末を予想できたのか!』
ネイラの宣言を受けて司会者が驚きの声を上げた。少し煽ってるようにも見えるな。おかげで会場も随分と盛り上がっている。
「貴方……一体何者なのよ?」
ネイラが俺に視線を向けてきた。声からは呆然とした様子が感じられる。
「別に、なんてことのないただのD級冒険者だ」
「D級って……そんな低級冒険者にやられるなんて……うぅ、お兄ちゃんにあわせる顔がないよぉ――」
どうやら俺ぐらいのランクに負けたのがよほどショックだったようだな。いや兄の見ている前で負けた事がか。どちらでもいいが、そこまで落ち込むことでもないだろう。
「お前の兄はそんなこと気にしてないと思うぞ」
「は? あ、あんたに何がわかるのよ」
こちらの発言にネイラが食って掛かってきたので俺は会場を指さして答える。
「あの顔を見ればわかる。お前の兄は戦いぶりをしっかり見届けていたようだな」
「え?」
ネイラが俺の指し示した方を見た。その視線の先でパトリエが優しく微笑んでいるのが見えた。
「お兄ちゃん……」
嬉しそうに兄の姿を確認するネイラを横目に俺はそのまま闘技場の入退場口に向けて足を進めた。
「あ、リョウガ選手どちらに?」
「元の場所に戻る。俺にもう用はないだろう」
司会者に問いかけられ答えた。観客席からは直接ここまで移動したが帰りは本来の移動手段を利用することにした。
しばらく歩いていると逆側から気配と足音が響いてきた。緩やかな弧を描く廊下を過ぎると気配の主が見えてくる。顔を隠すように仮面をした奴だった。髪は長く刺繍の入った白ローブ姿の人物だった。
「流石。見事な戦いだったわ」
俺の姿を確認するなり仮面の人物が軽く拍手してきた。声の感じからして女か。
「それでどうするつもりなんだ?」
開口一番俺はマスクの女に問いかけた。あの会場に殺意を持った相手が紛れていたのはわかっていた。狙いがモンドであることもだ。
同時に護衛を請け負っていた俺の試合に目を向けていたこともだ。だから警告の意味であの戯言に付き合ってやったわけだ。
「貴方の警告、確かに受け取ったわ。どうやら今貴方とやり合うのは得策ではないようね」
「――つまり?」
「今回は諦めるわ。手も引くつもりよ」
俺の問いかけに仮面の女が答えた。随分とあっさりした返答だな。
「物わかりがいいんだな」
「こちらも少々事情が変わったのよ。それよりも――貴方暗殺者の仕事やってみるつもりない?」
仮面の女が唐突に俺にそんなことを聞いてきた。まさかこっちの世界で暗殺者から勧誘を受けるとはな。
「――暗殺業に興味はない。それに俺は冒険者だ」
「それなら問題ないわ。うちは兼業も自由よ」
「そういう問題じゃないな。とにかく受ける気はない」
俺が答えると女が顎に指を添え考える素振りを見せる。
「おかしいわね。てっきり二つ返事で了承してくれると思ったわ」
「そうか期待をさせて悪いが俺にはその気がない。じゃあな」
そう返して俺は女の脇をすり抜けたが。
「おい、妙な事を考えるなよ――殺すぞ」
女を睨み返し再び警告した。恐らく俺を試すつもりのようだがそんなことは俺には関係がない。
「――鋭いわね。少し殺気を込めて感情を揺さぶっただけだったけど、やっぱり貴方はこちら側の人間ね。それなのにどうして断るのかしら?」
また質問か。全く諦めの悪い奴だな――




