第148話 軟体
俺の肘鉄は確かにネイラの脇腹にヒットした。だがまるでスポンジでも殴りつけたかのような感触がした。手応えがないという奴だ。
実際ネイラにはダメージが通ってないように思える。改めてネイラの動きを見る。
「今度はやらせない!」
初手から気づいてはいたが蛇腹剣を扱う腕の可動域が随分と広い。腕そのものがまるで鞭のように靭やかでありその動きがあるからこそ多彩な軌道を実現出来ているのだろう。
「避けるのは本当上手いわね!」
蛇腹剣は様々な軌道を描きながら俺に襲いかかってくるがそれ自体はそこまで怖くはない。確かに速いのだが見きれない程ではないからだ。
見ていると腕だけではなく全身の可動域が広く柔軟な動きを披露していた。攻撃が当たらないとは言え観客席もネイラの動きに首ったけだ。
見るものを魅了するその動きは新体操の選手を想起させる。
「随分と体が柔らかいんだな」
「――当然ね。私のスキルは軟体。体の柔らかさは私の強みよ」
「随分とあっさりと教えるんだな」
何気なく口にしたことだったがネイラはそれがスキルの効果であることをあっさりと話してくれた。
「それを知ったところで、どうせ大したスキルじゃないとか外れスキルと思うんでしょう? これまでも皆そうだったもの」
攻撃を続けながらもネイラがそんなセリフを口にしてきた。どうやら過去に色々言われたようだな。
「何故だ? ただ軟体というだけじゃ決めつけることは出来ないだろう?」
「……体を普通より柔らかくする――それが私の軟体よ。だから馬鹿にする人こそいても評価する人は少なかった。認めてくれたのはお兄様だけよ」
なるほどな。どうやらスキルに対するイメージだけで決めつけるのが多いようだな。
「貴方もどうせ心のなかでは馬鹿にしてるんでしょう?」
「うん? そんなことはないがな。今までの動きを見ていれば軟体というスキルを活かす為に研鑽を積んできたのがよく分かる。そういう直向きさは嫌いじゃない」
「え? 突然、な、なに言ってるのよ!」
話を聞いたネイラが顔を真っ赤にさせて怒鳴りだした。評価したつもりだったが気に触ったのか。
「戯言は終わりよ! 更に加速する!」
宣言通り動き回る刃の速度が上がった。そこから容赦ない攻撃を仕掛けてくるがネイラの攻撃を掻い潜り距離を詰め今度は腹部に拳を叩き込んだ。
「クッ、だけど無駄よ!」
「――なるほどな」
やっぱりそうか。鍛え上げた軟体の効果でネイラは衝撃を上手く逃がしダメージを緩和していたわけだ。こういうスキルの使い方もあるんだな――
「今度はこっちの番よ! とっておきを見せてあげる覚悟しなさい!」
ネイラが一旦剣を元の形状に戻しかと思えば腕をありえないほどに捻り出した。
「螺旋蛇咬刃!」
捻った腕を解放し放たれた蛇腹剣の刃が、文字通り螺旋状の動きで真っ直ぐ俺に伸びてきた。激しくスピンしその様相はまるでドリルだ。地面を削りながら俺に迫る――




