第146話 武器が見つからないと言われてもな
ネイラが立ち去ってからしばらく待ってるが中々戻ってこない。
「帰ってこないな」
「こ、こないですねぇ」
俺の隣で司会者も困り顔だ。周囲の観客たちも困惑している。
「もう終わりってことで俺も戻っていいか?」
「ちょ、ちょっとお待ち下さい!」
流石にここまでして待ってる必要もないと思ったが司会者は引き止めてきた。こんな形で試合が流れるのは好ましくないってところか。
「あの、少しいいですか?」
その時、一人の女が駆け寄ってきて話しかけてきた。眉をへの字にして弱ったような表情をしている。
「何かあったんですか?」
やってきた女に司会者が聞き返した。
「実は控室でネイラ様が武器を探し回っているのですが見つからないようで……手伝って頂いても宜しいでしょうか?」
なるほど。それで弱り顔だったのか。とは言えこちらには関係のない話だが。
『おっとこれはハプニング! ネイラ選手武器が見つからなくて困ってる様子! ネイラ選手の意外な一面を確認するために今からリョウガ選手と行ってみたいと思います!』
「おい」
司会者が周囲にそう訴えかけると観客たちからドッと笑い声が上がった。可愛いなどの声も聞こえるが、なぜか俺まで同行する話になっていた。そして司会者が俺の背中を押してくる。
「待っていても退屈でしょうからさぁさぁ」
結局面倒ではあったが俺と司会者で控室に向かった。部屋に入ると、あたりを引っ掻き回したのか随分と散らかっていた。
「ない、ない、うぅどこにいったのよぉ」
「ネイラ選手、武器はどうですか見つかりましたか?」
司会者がネイラに尋ねたことでこちらを振り返った。半泣きになった顔で俺たちを見てくる。
「あ~! さては貴方ね! 私の武器を隠したの!」
「いや、そもそも俺はお前がどんな武器を使うかもしらないんだが」
ネイラが近づいてきて文句を言ってきたが流れで決まった試合なのだから無理があるだろうに。
「ネイラ、全くお前は」
「あ、お兄様!」
すると控室に入ってきたもう一人の男性。ネイラの兄のパトリエだった。
「お前はよく物を無くすのだから気をつけろと言っておいただろう」
「うぅ、ごめんなさい。でもそんな怒ってるお兄様も素敵好き!」
「はぁ……」
ネイラに抱きつかれ頭を抱えるパトリエ。俺は一体何を見せられているのか。
「あの、よく無くされるのですか?」
「あぁ。ネイラは冒険者としての腕こそ確かだが日常生活は割とポンコツでな」
司会者に聞かれたパトリエが困り顔を見せる。武器を無くすのは日常生活がどうのという話でもない気がするが。
「そうだお兄様! 私考えたのです! きっとこいつが私を妨害するために武器を隠したんじゃないかって!」
ネイラが俺を指さしてまた寝言をほざいてきた。
「ネイラ。彼は今さっき突然試合が決まったんだ。武器を隠す暇なんてなかっただろう?」
「う、そ、それは……」
まさにパトリエの言う通りだった。俺がそれを言っても聞く耳持ってなかったようだが、兄のパトリエに言われたことで少しは考えたようだな。
「で、でも本当に私の武器が!」
「落ち着け。先ずこの控室で武器をどうしたか考えるんだ」
「そんなこと言っても~」
パトリエに諭されるネイラだったが瞳をウルウルさせて泣き始めた。
「あ、あの武器ってもしかしてこれのことですか?」
その時だった部屋に入ってきた女が手に剣を持って声を掛けてきた。最初に闘技場に来た女とは別な相手だった。
「あぁああぁあ! 私の蛇腹剣! でもどうして貴方が!」
ひったくるように剣を取りネイラがキッと女を睨む。
「えっと、貴重品があれば預かりますとお伺いした際に預かったのですが……」
「へ?」
女の返答にネイラが目をパチクリさせた。顎に指を添え考える仕草を見せる。
「…………あぁああぁああ! そういえばぁあぁあ!」
そしてネイラが思い出したように声を張り上げた。どうやら自分が預けたことをすっかり忘れていたようだ。
「では確かにお渡ししましたので」
「妹が申し訳ない」
「いえそんな……」
パトリエが頭を下げた横でネイラもごめんなさい、と伝えていた。そして戻ってきた剣を掲げテンションを上げている。
しかし蛇腹剣か。俺のいた世界ではあくまで架空の武器であり現実にはつくられていなかった。だがこっちの世界では現実の武器として存在しているようだな。
「さぁこれさえあれば負けないわよ! 試合しましょう!」
「その前に言うことがあるだろう」
改めて俺との戦いを望んでくるネイラだがパトリエがその頭に手刀を落とした。
「散々皆さんを振り回した上、彼には武器を取った疑いまで掛けたんだ。何をすべきかわかるな?」
「う、うぅ、わかったよ」
そしてネイラが俺に向き直り頭を上げてくる。
「疑ってごめんなさい」
「別にいいさ」
元々この程度で謝罪を求める気もないからな。
「妹が申し訳ないことをした。そしてこれ以上迷惑はかけられないからな。再試合は妹が勝手にいいだしたことだ。断ってくれても構わない」
「えぇええ! それはこまりますよ!」
パトリエの言い分に司会者が慌てだした。試合中止だけは避けたいという感じか。
「……その蛇腹剣は実際に使えるものなのか?」
「は? 何よ私を馬鹿にしてるの? 私はこの武器のおかげでB級まで上がれたんだからね!」
俺の問いかけにネイラがムキになって答えた。ネイラなりに譲れないものがあるってことか。
「――兄の私から見てもこの蛇腹剣を手にした妹の実力は確かだ。君の実力はかなりの物と思えるが本気のネイラと戦うのはオススメしない」
「お、お兄様にここまで言われるなんて、好き!」
ネイラの目がハートマークになってる気もしたが、しかしパトリエの言動は挑発的でもあるが――どちらにしても興味は出てきた。
「わかった。それなら戻ってさっさと試合といこう。このまま喋っていても時間の無駄だ」
「え? ということは試合を行うんですね!」
「あぁ、そう言ってる」
司会者の顔に明るさが戻った。現金なものだな。
「よし! では早速戻りましょう!」
そして俺たちは司会者に促され試合の為に再び闘技場へと戻った――




