第145話 敗北宣言したネイラ
『こ、これはなんとネイラ選手がギブアップ! 負けを認めてしまいました! て、本当にいいのですか?』
ネイラの敗北宣言を受けて司会者も大分戸惑っているな。そしてそれは周囲の観客も一緒のようだ。
「おいおいふざけるなよ! これからって時に!」
「あれだけ散々試合しておいて相手が強いと思ったら尻尾を巻いて逃げるのかよ!」
「ちょっと可愛いからって調子に乗ってるんじゃないわよ!」
観客席から野次も飛ばされ始めた。一部嫉妬のような物も混じっているが観客は納得してないようだな。
「勘違いしないで! 私はこのルールでは勝負にならないと思っただけよ!」
しかしネイラは野次に対して興奮気味に言い返していた。そして俺は少し嫌な予感がしてきたぞ。
『えっとそれは一体?』
「簡単な話よ。このお遊戯みたいな試合は私の負けでいい。だけどここからが本番よ。私は本来の武器で戦う――つまり貴方に本気の試合を挑むわ!」
俺に指を突きつけネイラが宣戦布告をしてきた。やれやれ、こういうことか。
『な、なんと! 観客席の皆様ガッカリするのはまだ早い! 何とネイラ選手これから本気の試合をリョウガ選手に挑むそうです! ですがこれは、ルール的にどうなのか、私は確認の必要があると思いますが全力で実現しようと思います!』
司会者が勝手に話をすすめ始めたぞ。俺は受けると言ってないんだがな。
「面白いじゃないか。私はネイラの意思を尊重したいと思う。観客席の皆様はどうかな?」
観客席で立ち上がり声を上げたのは市長のゴルドーだった。市長だけに試合の決定権も持ってそうだな。だからこそあぁやってアピールしているのか。
「おお! 市長も見に来ていたのか!」
「市長が許可すれば試合はすぐに見れるな!」
「勿論俺は大賛成だぜ寧ろやれ!」
「私も二人の本気を見てみたいーーーーい!」
ゴルドーがネイラの発言を受けて立ち上がったことで会場が更なる盛り上がりを見せた。どうやらこうやって外堀を埋めていき試合を成立させようという腹づもりか。
『どうやら会場の皆様も二人の本気の戦いを望んでいるようです! これは是が非でも試合を実現させる必要があります!』
司会者も観客席に向かって手を振りながら叫んでいる。
「フフン。どうやら試合しないと仕方ないみたいね」
するとネイラが挑発的な顔で挑戦状を叩きつけてきた。さて、どうしたものか。
『さぁリョウガ選手! この挑戦にどう応えるのか!』
盛り上がる会場。一体どうしてこんな展開になっているのやら。
「俺がこの試合を受けるメリットがない。それに武器が変わったぐらいでそこまで変わるとも思えないしな」
司会者に対してそう答えるとネイラがムッとした顔を見せた。今言ったことの七割は実際そう思っていることだ。ただここは俺の暮らしてきた世界と異なる異世界だ。武器が変わることが大きな変化につながる可能性もありそこに少しだけ興味が湧いた。
「そこまで言うなら見せてあげるわよ。私の本気の武器をね。だからちょっと待ってなさい!」
『え、ネイラ選手どこに!』
「控室よ! 武器を持ってきてあげるわ!」
そして闘技場からネイラが走り去ってしまった……割と自由奔放な女だな――




