第141話 キャットファイト
「この試合で私は金貨十枚を賭けるよ」
闘技場に向かったイザベラが司会者に金貨を手渡した。これまでで一番の賭け金だな。
「一応自己紹介しておくよ。私はC級冒険者のイザベラさ」
『お~っと! ここで紹介を始めたイザベラ選手は何と現役のC級冒険者! ネイラ選手はB級冒険者ですが本来C級冒険者も十分凄腕と言えるでしょう!』
イザベラの紹介に司会者が興奮気味に反応した。
「ま、私もこれで修羅場くぐって来てるからね。簡単にやられるつもりはないよ」
「――そんな前置きなんてどうでもいいわ。勿論等級もね。より強い方が勝つ、それだけよ」
「ハハッ、そりゃそうだねぇ」
イザベラはそう答えつつ用意された武器から曲刀を二本手に取った。
「ほう。二刀流か」
イザベラが選んだ武器を見ながらゴルドーが興味深そうに言った。
「ふむ。護衛の時は一本だけだった気がしますが、あれが本来のスタイルなのかもしれないですねぇ」
ゴルドーに続いてモンドもイザベラをマジマジと見ていた。二刀流はその場の思いつきだけで何とか出来るような芸当じゃないからな。普段から扱いに慣れていないとただの見せかけで終わってしまう。
「私の剣舞、しっかりと味わってもらうよ」
「――いつでも来なさい」
ネイラの答えを聞いた瞬間、イザベラが地面を蹴り一気にネイラとの距離を詰めた。
「ハッ!」
ネイラとの距離を詰めたイザベラは曲刀を二本交差させ水平に振るう。かなりの速度だな。イザベラもC級冒険者だけあってそれ相応の実力はある。だからこそ今回の護衛の仕事を受けたのだろう。
一方でネイラは柔軟な動きでイザベラの動きを避け鎖の鞭を振るった。自由自在に動き回る鞭の軌道は並の人間ならそれだけで惑わされ避けることも難しいだろうな。
だがイザベラはまさに踊るような動きで鞭を避け捌き、隙間を突いてネイラに切りかかっていく。
「捉えた!」
ネイラの脇腹に向けて曲刀が迫る。タイミングで言えば確かに避けられない。だが――ネイラはグニャリと上半身を折り曲げイザベラの一撃を避けた。
「すっごい、何あの体の柔らかさ――」
パルコもネイラの動きに目を丸くしている。まぁあれで驚かない方が無理だろうな。
「まだ!」
イザベラが上半身を逸らした姿勢のネイラに向けて曲刀を振り下ろした。しかしネイラはそこから更に体を折りたたむようにして避けイザベラの曲刀が虚しく空を切った。
直後ネイラの脚がイザベラの首に絡みつく。そのまま首を絞めているようでイザベラの顔色が変わっていった。
「ギブアップしたら?」
「ま、まだ、ぐ、ぐる、うぅうっぅ、じいぃいいい! ぎ、ギブアーーーーップ!」
結局イザベラはキツくなる締め付けに耐えられなくなり負けを宣言した。勝負は決まった。
これまででネイラとイザベラとの対戦が一番真っ当な試合だったと思うが、それでもネイラには勝てなかったな。
敗北したイザベラは喉を押さえ咳き込みながら苦しそうにしている。
『これは残念! イザベラ選手もいい勝負をしていましたが後一歩及ばなかったか! しかしネイラ選手は強い! 果たして彼女より強いのはここに存在するのか!』
司会者が煽るように声を張り上げる。見ていた観客も誰かいないかみたいな話をしているようだが挑戦しようというのは出てこないな。
「いるよ――ゲホッ、そいつより確実に強いのがこの会場にね」
すると興奮気味に声を上げる司会者に向けてイザベラが言った。ネイラの視線がイザベラに移る。
「確実に強い? 随分な自信ね」
「ヘヘッ、興味あるかい? だったら今度はそいつと勝負するんだね。司会者さんさぁ、私は次にそいつに賭けるよ! さぁ出番だよリョウガーーーー!」
イザベラが声を張り上げ名指しされた俺は自然と額を手で押さえていた。嫌な予感はしたんだがな。全く勝手に何を言ってるんだか――




