第137話 A級冒険者パトリエの実力
「な、なんだこれは!」
「お、おい! あんなものどうやって連れてきたんだ!」
檻に入っていたのは三つの頭を持つ巨大なヘビと、頭に角が生えた巨人、そして体は狼だが顔が二つある化け物だった。観衆からは悲鳴とも歓声とも取れる声があちこちからあがった。
『この三体の魔獣はAランクの魔物! それぞれヒュドラ、グレートオーガ、ヘルウルフと名付けられています! そのどれもが凶悪で強力! 例えAランク冒険者であっても決して一人では挑まず多数のパーティーが必須とされる程なのです!」
司会者が魔獣の強さを周囲の観客にアピールした。話を聞いた観客たちの興奮度が増しているのがわかる。
『驚いたことに今回パトリエ選手はなんとたった一人でこの三匹の魔獣に挑むというのです! 一匹でも死を予感させる魔獣をです! 勿論戦いは一匹ずつ行うことになりますが、それでも三連戦となるとどれだけ厳しいかがわかると思います。さてこれから15分間皆様には賭けに参加するチャンスがあります。パトリエ選手がこの三匹の魔獣全てに勝てるのか? それとも一匹しか勝てないのか、はたまた二匹か全く手も足も出ず終わるのかそれらを是非予想してみてください!』
司会者の話が終わると観客たちが立ち上がり一斉に窓口に向かった。
「へぇ面白そうじゃないか。それじゃあ連勝狙うとしましょうか」
言ってイザベラも窓口に向かった。俺は興味がなかったのだが――
「リョウガといったね。君ならどう予想するかね?」
横からゴルドーが俺に聞いてきた。俺がどう見てるか気になるようだ。
「折角市長が聞いているのだから予想を聞かせて貰えると嬉しいねぇ」
正直賭け事に興味はないが、依頼者のモンドにこう言われては答えないわけにもいかないか。
「――例え三匹同時に相手したとしてもパトリエの勝ちだろう」
それが俺の答えだった。あの司会者は煽るように解説していたし魔獣も確かにそれ相応に強いのだろう。だがあのパトリエは更に強い。発せられる気配だけでもそれはわかる。
「なるほど。しかし三匹同時となると流石に厳しいかもしれないがね」
「そうかもしれないな。あくまで俺の予想だ」
顎をさすりながらそんなことを語るゴルドーはやはり中々の曲者なのかもな。
「ふぅ。人がごった返して大変だったよ」
「それで何に賭けたの?」
「へへっ、まぁそれは終わってからのお楽しみってことで」
パルコの問いかけにすぐには答えずイザベラは闘技場の様子に目を向けた。少しして締切となり司会者が再び喋りだす。
「タイムアーーーーップ! 皆様賭けは終わったかい? それならばこれから早速試合の開始だ! これから魔獣相手の連戦が――」
『『『グォオォオオォオオォオオオ!』』』
司会者が熱弁を振るっている途中、三匹の魔獣が暴れ始めた。檻がミシミシと悲鳴を上げている。
「お、おいおい! あれヤバくないか?」
「檻が壊れるんじゃ?」
「だ、大丈夫だろう?」
観客たちが固唾をのんで見守る中――それは起きた。魔獣の暴走に耐えきれず檻の格子が外れ三匹の魔獣が飛び出してきた。観客たちの悲鳴が響き渡る。
「ひ、ひぃいぃいいい!」
司会者がパトリエの方へ一目散に逃げ出した。ほぼ同時に檻から飛び出した魔獣がパトリエに向けて襲いかかる。。
司会者はパトリエの横にへたり込んでいた。完全に腰が抜けてしまっている。そしてパトリエとの距離を詰めた魔獣の動きが――止まった。三匹が同時にだった。
「へ? い、一体何が?」
司会者も目をパチクリさせ、観客席も静まり返っていた。そして――パトリエが踵を返しスタスタと引き返し始める。
「へ? ちょ、ちょっとどうしたんですか! 眼の前に魔獣がいるんですよ!」「お、おいまさかビビって逃げる気か!」
「見損なったぜパトリエ!」
周囲から野次が飛んだ。この状況でその程度の認識か。
「既に切っていると言うのにな」
「試合なら決着はついた」
俺の言葉と引き返しながら発したパトリエの声が重なった。刹那――魔獣の体に幾つもの線が走り細切れになった魔獣の肉片が闘技場に降り注いだ。




