第135話 市長
「あ、あの、申し訳ありません。私とどこかでお会いしましたか?」
エンデルが疑問顔で返した。身なりの良い男はエンデルのことを知っているようだがエンデルには覚えがないらしい。
「ハハッ。直接私が見たのは君がまだ小さなころだからね。だけどモンドからは話を聞いていたし、成長した姿も魔導具を利用して見せてもらっていたからね」
軽く笑いながら男がエンデルに答えた。直後その目が俺に向けられる。
「ところで君は?」
「――依頼主のモンドから頼まれて護衛をしている冒険者だ」
「なるほど。随分と腕が立つと見えるがそれなら納得だ。おっと紹介が遅れたね。私はここの市長をしている、ゴルドー・アルタイルという者だ」
身なりの良い男――ゴルドーが名乗った。ここの市長だったか。モンドは色々顔が利く商人のようだから市長と知り合いでもおかしくはないか。
「それで君たちはどうしてここに?」
「えっと……」
ゴルドーに問われるもエンデルは答えづらそうだった。仕方ないか。
「試合を見ていて具合が悪くなったようでな。付き添って手洗いに向かうところだった」
「なるほどそうだったか。しかしここは金目当てになにするかわからないのも時折現れる。十分気をつけた方がいいだろう」
「そのために俺がいる」
「あぁ、確かにそのようだね。それはそうと――君、薬を」
「承知いたしました」
ゴルドーが同行していた女に言うと懐から女がサッと懐から包み紙を取り出した。
「この薬をどうぞ。気分がよくなりますよ」
そう言って女がエンデルに包み紙を渡そうとしたが俺が遮った。
「どうかしましたか?」
「念の為だ。先ず俺が確認する」
市長であるという発言に嘘はなさそうだが念には念を入れる必要がある。
「――市長の好意が信じられないと?」
「俺は市長の顔を知らない。エンデルにも記憶はない。それにそっちが言ったんだろう? 金目当てに何しでかすかわからない奴がいるから気をつけろと」
俺の言葉に女がムッとした顔を見せる。
「アッハッハ! 確かにその通りだ。君は本当に出来る男のようだね。そして君の言うとおりだ。しっかりチェックしてくれて構わないよ」
ゴルドーから許可を得たので紙を広げた。中には白い粉が入っていた。匂いは特に問題なく舐めてみても刺激も感じなかった。怪しい薬でもないようだな。
「問題ないようだな」
「だから言っている」
そう答えつつ女が水筒の蓋に水を注いでくれたがそれも念の為に確認した。こっちも問題はないようだった。
「大丈夫だ。飲んでいいぞ」
「えっと、その、それがもし毒だったらリョウガさんが危険だったのでは……」
エンデルが心配そうに言ってきた。俺は護衛なのだから当然なんだがな。
「問題ない。俺に毒は効かないからな」
「え?」
「いいから飲んでおけ」
疑問の声をあげるエンデルに薬を飲むように促した。俺から受け取った薬を嚥下するのを確認し女に水筒を返した。
「気分はどうかね?」
「え? あ、そういえば少し良くなってきました」
ゴルドーに聞かれたエンデルが目をパチクリさせながら答えた。どうやら即効性があったようだな。
「なら、もうこの先にいかなくても大丈夫か?」
「あ、いえ、その」
俺の問いかけにエンデルが頬を染めてモジモジしだす。なるほどそっちも我慢してたか。
「それなら君がここから付き添うといい。同じ女性の方が良いだろう」
「承知いたしました」
エンデルの様子から察したのかゴルドーが女に命じたが勝手に決められても困るな。
「それは俺の仕事だ」
「ふむ。それなら後ろからついていくとよいだろう」
そこまで言った後ゴルドーが俺の耳元で囁く。
「リョウガと言ったね。このぐらいの年頃の子というのは繊細なのだからもう少し気を使ったほうがいい」
それを聞いても特に何も思わなかったが後ろからついていけば心配はないか。
俺は言われた通り二人の後をついていった。その後は用を足したエンデルたちと一緒にゴルドーの下へ戻る。
「ではこれから戻るのだろう。同行しよう。モンドとも話をしたいからね」
俺たちが戻るのを待っていたゴルドーがそんな事を言った。エンデルに確認したが問題はなさそうだったので一緒に戻ることにしたわけだが――




