第133話 エンデルに付き添う暗殺者
「ごめんなさい、私ちょっとお手洗いに……」
顔を青くしたエンデルがモンドに伝え席を立った。
「そうか。ではリョウガが付き添って貰えるかな?」
「わかった」
モンドに頼まれ俺はエンデルと一緒に席を立った。トイレはコロシアム内にも設置されている為、そこまで時間が掛かるわけではないが、この短い時間でも狙ってくる奴はいるからな。一人にさせないのは妥当な判断だろう。
「何か申し訳有りません。こんなことでわざわざ」
「気にしないでいい。俺にとってこれが仕事だ」
エンデルは俺がついていくことで心苦しく思っているようだが、ここで一人にさせてトラブルにでもあったらそっちの方が問題だからな。
「えっと、そういえばどこに……」
エンデルがキョロキョロと辺りを見回した。トイレの場所がわからないのだろう。
「こっちだ」
「あ、ありがとうございます」
エンデルがお礼を言ってついてくる。コロシアム内の構造は入った段階である程度把握した。案内図もあったので頭に入っている。
トイレはコロシアム内の東西の廊下側にある。観客席やチケットを販売しているホールと比べたら人気は少ない。
「おい待てよ」
エンデルと歩いている途中、後ろから低い声で呼ばれた。声の雰囲気からしてろくな要件ではないだろう。
「行くぞ」
「え? でも今呼ばれて……」
エンデルが振り返ろうとしたが腕を引いてそのまま行こうとした、が、分岐された左側の道からいかにもと言った風貌の男三人が現れ邪魔をする。
「おいおい呼んでるのに無視はないだろう?」
「俺たち傷ついちまったなぁ」
「これは詫び料をもらわにゃやってられないぜ」
「りょ、リョウガさん……」
屈強な男三人に立ち塞がれエンデルも完全に萎縮してしまっていた。男たちは手にナイフを持っている。予感は当たったか。面倒だから無視したかったんだがな。
「逃げようとしたんだろうが残念だったな」
「とりあえずそっちの女はいただくぜ。男のテメェはいらねぇが俺等を無視した罰は受けてもらうぜ」
後ろからは男が二人が近づいてきていた。最初に声を掛けてきたのはこの二人のどちらかだろう。しかしこうもあっさり狙われるとはモンドの判断は正しかったな。
「選択しろ。このまま黙って俺等にボコられるか抵抗して余計にボコ――」
後ろの男が偉そうに喋っている間に俺は前に出て正面の男に拳を叩き込んだ。
「グェッ!」
仲間が吹き飛ばされ左右の二人もギョッとしている。間に割って入り裏拳を叩き込むと二人の男も左右の壁に叩きつけられ黙った。意識はない。
「なんだあいつ、ツエ~ぞ!
「くそ! おいお前さっさとこっちにこい!」
振り返ると顔を険しくさせた男がエンデルの腕をつかもうとしていたので倒れた男からナイフを奪い投擲した。
エンデルの腕を取ろうとした男の腕をナイフが貫く。
「グワァアアアァアアァアアァア!」
絶叫を上げる男を無視して俺はもう一本ナイフを手に残った男との距離を詰めたが――
「駄目! 殺さないで!」
エンデルの叫び声が響き俺は動きを止めた。ナイフを手に襲ってきたこいつらは殺されても仕方ないと思うが、依頼人の娘であるエンデルがそれを望むなら従う必要があるだろう。
「ひ、ひぃいぃぃい! 誰か、誰か来てくれぇえええぇ! 殺されちまうぅうぅぅう!」
その時、残った男の一人が声を張り上げて助けを求めはじた。これには俺も面食らった。まさか襲ってきた方が助けを求めるなんてな――




