第131話 両手に華?
護衛を引き受けた俺たちはホテルから二手に分かれることになった。
俺はモンドの護衛にあたる。俺以外にはイザベラとパルコが一緒だ。自然とマリス、ゴング、クルスが別行動になる。
「いやぁリョウガは幸運だねぇ。両手に華じゃないか」
護衛の為にモンドに付いていくことになり、馬車に同乗している俺たちだったがイザベラが妙な事をいいだした。
確かに今乗っているのは比較的大型の馬車で俺側には両隣にイザベラとパルコが座っている形だ。とは言え仕事で来ている俺がそんなことを考えているわけもない。
「興味がないな。俺は仕事で来てるんだ」
「真面目だね。でも興味がないのはわかるよ。寧ろ心配なんじゃない?」
今度はパルコがおかしな事を口走った。
「護衛対象が心配という意味なら、それをなんとかするのが俺たちの仕事だろう」
「いやそうじゃなくてマリスのことだよ」
「……なんでそこであいつの名前が出るんだ?」
全くもって意味のわからない話だ。
「だってリョウガとマリスってそういう感じなんじゃないの?」
「あぁなるほど。向こうは男二人に囲まれてるからねぇ。確かに気が気じゃないかもねぇ」
パルコの見当違いな指摘を聞きながら、イザベラも勝手な私見を述べニヤニヤしていた。
「バカバカしい話だ。俺とマリスはパーティーを組んでいるから一緒に行動しているだけだ。二人が考えているような関係じゃない」
「そうなの? でも全く意識してないわけじゃないよね?」
「全くと言っていいほどないな」
パルコがしつこく俺とマリスの関係に触れてくるが仕事上の関係以外の何物でもない。それが事実だ。
「え? 違うんですか?」
正面に座っていたエンデルが意外そうに聞いてきた。その隣ではモンドが静かに耳を傾けている。
「違いますよ。俺とマリスは仕事仲間であってそれ以上でも以下でもない」
「そ、そうだったんですね――」
そう答えたエンデルの頬が僅かに紅い。これは俺としては少々面倒な傾向だ。
「ま、そういう意味ではパルコも一緒かい? ゴングがマリスに興味いかないかとか」
「それこそお好きにどうぞってところよ」
パルコはパルコでイザベラの勘ぐりを受けるが素っ気なく否定していた。
「二人も余計なことに考えを巡らせてないで護衛に集中するんだな。いつ何がおきるかわからないのだから」
色恋沙汰にばかり話が言っているがそろそろ真の目的に目を向けてもらいたいものだ。
「はは、リョウガは真面目ですねぇ。ですが今走っているのは大通り、流石にここで狙われることは少ないでしょう」
「そういう油断が命取りになることもあるからな」
俺の言葉にイザベラが肩を竦めてみせた。そんなやり取りをしながら馬車は進んでいく。
「ところでこれからどこに向かうのかな?」
パルコが窓の外を眺めながら口にした。基本的に相手がどこにいようと変わらず護衛の任務にあたるだけだ。だから俺は行き先にそこまで興味はない。
「ちょっとコロシアムにね。どうやら今日は中々面白いお披露目があるようですからな」
モンドが答えた。コロシアム、つまり闘技場があるようだ。闘技場は登録することで試合が可能となり勝利することで賞金を得られ人間同士の戦いもあれば魔物じゃ魔獣を相手する試合もある、とモンドが教えてくれた。
当然だがコロシアムでは命の保証はされない。その為の誓約書も書かされる為、例え命を落としても自己責任なようだ。
「コロシアムねぇ。でもお嬢様には少々刺激が強すぎるのでは?」
「そ、そうなのですか? 実は私も初めてで……」
イザベラの話を聞いてエンデルの顔が強張った。確かにこれぐらいの年の娘なら気が引けるかもな。命のやり取りが行われるような場所だ。
「まぁ何事も経験ですからな」
モンドが答えた。中々個性的な考え方だな。普通は娘に見させるのはためらわれそうだが。
「さて、そろそろ到着ですぞ」
途中特に何事もなく俺を乗せた馬車はコロシアム前までやってきた。まぁ降りてからも油断はできないからな。引き続き仕事に専念するか――




