第126話 商業都市トルネイル
「おやおや随分と死体が転がっていることですねぇ」
リョウガたちが去った後に残った盗賊の死体を眺めながら一人の男が嬉しそうに呟いた。
「これだけいれば掘り出し物の一つもあるかもしれませんねぇ。さぁ召し上がれ」
男はそういって隣にいるモノの背中をポンポンっと叩いた。男に従いソレは盗賊の死体を貪り食う。
「いい食べっぷりですよ。トルネイルではしっかり働いて貰う必要がありますからねぇ。さぁしっかり力をつけなさい」
男は満足そうに頷きながらトルネイルでの楽しいオークションを思い浮かべるのだった――
◇◆◇
あれから更に数日掛け、俺たちの護衛する馬車はトルネイルに到着した。勿論その間も賊や獣なんかに襲われたが問題にはならなかった。
「うわぁ~見てよリョウガ! すごい大きい街だよね」
窓から街並みを確認しマリスが楽そうに笑った。俺も確認してみたが確かに巨大な街だ。規模的には都市という呼び方がピッタリハマるだろう。
「何せ大きさだけなら王都よりもデカいからな。商業都市トルネイルと呼ばれるのも納得だ」
腕組みしながらゴングが語った。王都には行ったことがないがなんとなく凄さは伝わる。
それから門の前で暫く待つことになった。巨大な都市だけに出入りには厳しいチェックが入るようだな。オークションのこともあるわけだしそれは当然と言えるか。
それから暫くして許可がおりたようで馬車は門の中へと入っていく。
「なんだか来てる冒険者も多そうだね」
これはパルコの言葉だった。街なかには武装した男女やいかにも魔法使いといった出で立ちのも多くいた。この見た目で冒険者だと判断出来るのだろう。
「とりあえずはこのホテルでチェックイン致しましょうか」
「へ? ホテル?」
馬車が止まり降りたところでモンドが言った。ホテルという響きにマリスが目を白黒させる。
そして眼の前の建物を見上げていた。地上十二階の建物だった。こちらの世界で考えると十分に大きな建物と言えるだろう。
「こういうでっかい街の宿屋はホテルなんて言ったりするのさ。規模も段違いだからねぇ」
イザベラがマリスに説明していた。ホテルは俺のいた世界では珍しいものではなかったが、こっちの世界ではそうでもないだろう。一般的な町にある規模だと宿屋と呼ぶようだしな。
「それじゃチェックインしてきますので、皆さんは暫くこちらでお待ちください」
モンドがそういってエンデルと一緒にホテルの受付に向かった。俺たちはとりあえずエントランスで待つことにする。マリスはソファに座ってくつろいでいた。
「リョウガも座ったら? すっごい気持ちいいよ!」
「俺は大丈夫だ。それとソファでそんな跳ねるな」
ソファに腰掛けつつピョンピョンするマリスにイザベラたちも苦笑いだ。周囲の客にはくすくす笑っているのもいてゴングは顔を赤くさせていた。
「マリスって面白いよねぇ」
「えぇそうかなぁ?」
パルコがおかしそうにしているがマリスには自覚がないな。
「おまたせ致しました。それでは一旦部屋に向かいましょうか」
どうやら受付が済んだようでモンドに促され部屋に向かうことになった。少々驚いたがホテルにはエレベータが備わっていた。魔導で動くタイプらしい。
「ちょ、ちょっとちょっと、こんなの本当に大丈夫なのかい? 途中で落ちたりしないだろうねぇ」
「はは、大丈夫ですよ」
不安がるイザベラにモンドが笑顔で答える。エレベーターは透明で外の景色が良く見える。それがイザベラを逆に不安にさせたようだ。マリスは相変わらずはしゃいでいる。
「すごいすごい! リョウガこんなの見たことある?」
「さぁな」
マリスの質問には曖昧に返しておく。下手に知ってると言っても面倒なことになりそうだからな。
しかしエレベーターまであるとはこの世界は場所によって技術の差が激しいものだな――




