第119話 しれっと戻る暗殺者
「リョウガどこ行ってたんだ?」
俺が戻るとゴングから問いかけられた。こっちも既に大分落ち着いていたか。
「一応俺も護衛の任務で来てるからな。他になにかいないか見回ってきた」
「そうだったのか……それで何かいたのか?」
やはりそこは確認されるか。まぁごまかすことでもないからな。
「そっちにそいつらの群れがいた。そのボスである六本腕のもな」
「六本腕だと? まさか! シックスアームストロングか!」
ゴングが驚愕した顔で叫んだ。しかしわりと有名なのかシックスアームストロング。
「おいおい嘘だろう? まさかたった一人であのシックスアームストロングを倒したってのかよ」
「フォーアームストロングだけでも厄介だというのに、シックスアームストロングまで相手するとは、す、凄すぎる」
「これはゴングじゃ相手にならないわけだね。だってあのシックスアームストロングを倒すぐらいなんだからね」
「確かにね。シックスアームストロングに比べたらフォーアームストロングなんて子猿みたいなもんだろうからねぇ」
「うむ。まさかシックスアームストロングまでいたとは……本当に危なかった」
「シックスアームストロングに襲われていたと思うと恐ろしいです……」
「まじかよあいつ、あのシックスアームストロングを倒したらしいぞ」
「信じられないシックスアームストロングを倒すなんて」
「すごいよリョウガ! えっとシックスアーム、す、ストロク? それを倒すなんて!」
俺の話を聞いて何か御者を務めていた黒服連中も驚いているが、揃いも揃ってシックスアームストロングと言いたいだけなんじゃないか、と思えなくもないな。マリスに至ってはその場のノリに合わせただけで絶対わかってないと思うが。
「シックスアームストロングはともかくついでに賊も現れたからな。それも倒した」
「賊だって! リョウガ、俺等より全然仕事してるじゃねぇか」
「とにかく、一度確認に行った方がよさそうですね」
ゴングが面を食らったような顔を見せていた。そして依頼人のモンドは俺が片付けた連中を見ておきたいようだ。
「こっちだ」
とりあえず俺は全員を戦った場所まで案内することにした。すぐ横でニコニコ顔のマリスが並んで歩いている。
「随分とご機嫌だな」
「うん。リョウガもしっかり働いてくれたって皆感心していると私も嬉しくなっちゃって」
マリスはそんなに第三者の目が気になるのか。俺は自分の仕事さえこなせればそれでいいがな。
そうこうしている内にさっきまで戦っていた場所に到着した。改めて見ると結構な有り様だな。
「シックスアームストロングはどうなったんだ?」
「何か技を繰り出そうとしていたからな。処理したら消え去った」
俺はその時の状況も全員に伝えたわけだが。
「それってシックスアームストロングが使う大技! パワーストロングキャノンじゃねぇか!」
「ちょっとした城ぐらいなら軽く破壊できるって噂のシックスアームストロングの得意技か」
「それがあるからこそシックスアームストロングは恐れられていた筈なんですが」
「そのシックスアームストロングという名前は一々言わないとダメなのか?」
流石に俺も聞いてて鬱陶しくなってきたからそう伝えた。
「でもそうなると倒した証明は出来ないかねぇ」
イザベラが残念そうに言った。死体が残ってないから確かにシックスアームストロングに関しては厳しいか。
「いや。フォーアームストロングの死体の数を見ればわかります。通常フォーアームストロングは群れをなしませんからね。それが起きたということはボス格が現れたということです」
顎に手を添えモンドが考えを述べた。そのあたりは詳しくなかったからな。知っているのがいて助かる。
「だけど勿体ないよね。シックスアームストロングの素材なら高値で売れたわけだし」
パルコがガッカリしたように言った。素材か。確かにそのことはあまり考えてなかったな。
「こんなのに襲われて命があっただけ儲けものだろう。それに残ったフォーアームストロングの素材だけでもそれなりの価値にはなるだろうからな」
「まぁこれでも何匹かは消え去ったんだけどな」
「つまりこれ以上にいたってことかよ……」
ゴングはいよいよ呆れたような目で俺を見てきた。
「で、あとはこっちの賊共か。完全に相手が悪かったな」
「そうですね。シックスアームストロングを倒すような相手に勝てるわけないですからね」
それが賊の死体を見たときのゴングとクルスの反応だった。なるほど、そういう評価になるんだな。確かに揃いも揃って大したことなかったが。
「実際最初は様子見を決め込んでいたようだからな」
「でしょうな。きっとシックスアームストロング相手に全滅すればそれでよし、そうでなくてもこれだけの魔獣を相手した後ならば楽に倒せるとでも思っていたのでしょう」
まぁそうだろうな。実際相手する限りそんな様子だったわけだし。
「揃いも揃って大した物はもってないようだな」
賊の死体を漁りながらゴングが言った。こっちでは賊の持ち物を奪っても罪には問われないからな。使えるものがあれば持ち帰るのが基本なのだろう。
「リョウガ、本当にありがとう。もし賊に襲われていたらエンデルが傷物にされていた可能性だってあるわけだからな。感謝してもしきれないよ」
そう言ってモンドが頭を下げてきた。
「別に俺は自分の仕事をこなしただけだ」
「ハハッ、本当に頼りになりますな。勿論ここにいる全員のおかげでとりあえずの難は逃れたわけですからな。感謝の言葉もありませんぞ」
依頼人のモンドから述べられた感謝の言葉に他の面々も安堵した顔になっていた。その場は必要なものだけ採取し、再び移動を再開させたわけだが、その日はこれ以上のことは起こらず夜を迎えた――




