第118話 暗殺者は仕事する
ゴングたちはフォーアームストロングを倒したことで随分とテンションが上がってるようだ。マリスも含めて互いの健闘を称え合っているな。
さて――ゴングに言われた通り距離を取っていた俺の横には自然とモンドとエンデルが並び立っていたわけだが、二人に聞こえるように俺は声を発す。
「悪いが俺は少しだけこの場を離れる」
「ほう――何かありましたか?」
モンドが俺に向けて聞いていた。隣のエンデルは不安そうな顔を見せている。
「俺も少しは仕事しないといけないからな。周囲を見てくる」
「なるほど――わかりました。お気をつけを」
モンドの許可を得て一旦その場を離れた。表情を見るにモンドは何かを察していたようだな。
さて――少し足を早めて気配のする方へ移動した。そこに案の定いたな。フォーアームストロングの群れ。そしてひときわ大きく腕が六本ある存在。
恐らくあれがこの群れのボスか。最初のフォーアームストロングはあくまで偵察のために寄越されたと言ったところなのかもな。
しかし腕が六本ならシックスアームストロングといったところか。まぁ名前なんてどうでもいいか。
「悪いがこの先は通行止めだ」
「――ッ!?」
前を行くフォーアームストロング四匹の首をまとめて狩りながらそう告げてやった。ボスが動きを止め俺を睨みつけてくる。そのボスを守るように後方にいた手下のフォーアームストロングが前に出てきた。
ボス以外で、残り六匹か。しかしこんな巨体が群れで来るとそれなりに迫力はあるな。
『グォオォオォオォオォォォォォオオオオ!』
「「「「「「ウォオォオォオォオォォォォオオオ!」」」」」」
ボスが雄叫びを上げそれに倣うように他のフォーアームストロングも声を上げた。やかましいな。だが奴らの戦闘力が上がっていくのを感じた。マリスの魔法のように奴らは自分たちの肉体を強化する能力を持っているようだな。
「悪いがやることは変わらない」
宣言し俺は一瞬にして全てのフォーアームストロングとの間合いを潰した。刹那の間だ。何が起こったのかフォーアームストロングたちは誰一人として理解できていない様子だな。それはボスも一緒なようだ。ただ目の前にいた仲間が一瞬で切り裂かれている。
「グオオォオォォォオオォオオオ!」
残されたボスは随分とご機嫌斜めのようだ。仲間を殺されて怒り心頭といったところか。
「グウゥウウウウ――」
するとボスが後方に大きく飛び退き六本の腕を一箇所に寄せて力を集め始めた。オーラのような物が一箇所に集められていく。あれが魔力なのかこの魔獣特有の力なのか、まぁどちらでもいいが、何かやらかすつもりのようだな。
膨れ上がったオーラは球状になり膨張した。ニヤリとボスが口角をつり上げる。勝ちを確信したような顔だな。
「ご苦労さん」
集束したその球体目掛けて俺は電撃を放出した。貫かれたボスのオーラは力の均衡が崩れ轟音とともに弾け飛んだ。光が柱となりボスを飲み込み結果ボスは塵芥となって消え去った。
ボスのいた場所を中心に地面が陥没しフォーアームストロングの何匹かも消滅してしまっていた。大した破壊力だが安定性がなさすぎたな。
恐らくあいつの決め技だったんだろうがあの手の技は仲間がいてこそだろう。先に仲間を倒されたならあんな隙が多くて自滅力も高い技を狙うべきではなかった。
「さて、と隠れてこそこそしてないで出てきたらどうだ?」
俺が声を掛けると同時に矢が一斉に放たれた。なるほどこっちが気づいてなければ隙を見せた時に殺ろうって判断だったか。
それは悪くない手だ。なら俺もサクッと殺してもよかったが、一応目的は知っておきたかったからな。
暗殺者時代なら問答無用だったが、一応は表舞台に立ってるわけだからな。とりあえず殺しておけばいいという考え方は捨てないといけない。
そんなことを考えながら射られた矢を手で払っていく。するとずらずらと武器を手にした男連中が姿を見せた。
「なんなんだテメェは……」
男の一人が苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。最初に矢を射ってきた段階で俺を殺れたと思いこんでいたのだろう。悔しさと同時に俺に対する恐怖も感じていそうだった。
「おい、ヤベェだろうこいつ。あのシックスアームストロングどもを一人で殺るような奴だぞ」
「やっぱり手を出すんじゃなかったんじゃねぇか?」
なんだ。あの六本腕の名前、本当にシックスアームストロングだったのか。わりと安直だったな。
それはそれとして、この様子だとこいつらはあの魔獣がいたから様子見に徹していたというところか。手を出しても割に合わないとでも思っていたのだろう。
「だからこそだ。こいつが一人の内に殺っておけば奪うのが楽になる。仲間と合流されたら厄介なだけだ」
今の話で目的はハッキリしたな。事前の話にもあったが荷を狙いに来た賊といったいったところだろう。
「それにこっちには秘策がある。おい!」
「おまかせを。スキル――封技!」
命じられフードを目深に被った男が俺に向けて右手を突き出しそう叫んだ。
「お前の強さ。スキルによるものだろう? こいつのスキルは一時的にスキルを封じるのさ! さぁお前ら殺っちまえ!」
なるほど。確かに相手の強みをなくせば有利に働く。その考えはわるくないが。
「わざわざ説明どうも。ま、無駄だが」
武器を片手に向かってきた賊共目掛けて蹴りを放つ。旋風脚という技に近いものだが、俺が放つと足刀が刃のごとく切れ味を見せる。一刀両断された死体がその場にボトボトと溢れ落ちた。
「な、なんだそりゃ……スキルを封じたはずだろう。お前! ミスったのか!」
「そんな筈はない! スキルは間違いなく封じたはずだ!」
「悪いが――」
仲間内で揉めている間に距離を詰め、手刀で二人まとめて胸を貫いた。
「俺はスキルなんてものは持ち合わせていないんでね」
「ば、ばけも、の、が――」
そんな声を最後に残った賊も事切れたようだ。
化け物か。こっちの世界に来る前からよく言われていたことだ。今更どうとも思わないな。
さてと、賊はついでみたいなもんだったが、俺の仕事も終わったし戻るとするか――




