第117話 リョウガの力はいらない?
俺たちが馬車から降りるとモンドたちの乗った馬車の正面に巨大な化け物の姿があった。
見た目には角のない鬼といったところか。緑がかった体毛が色濃く生えていて丸太のような四本の腕を広げて威嚇している。
「ありゃフォーアームストロングじゃねぇか!」
「全く。早速厄介な魔獣に目をつけられたものだね」
見上げるほどの大きさを誇る魔獣にゴングあきらかに焦っていた。イザベラも険しい顔を見せている。
モンドの馬車からはマリスとパルコが既に出てきていて魔獣と相対している。
「――聖なる守護よ、我らの防壁を築き給え。神聖な光により、敵の侵入を阻むがごとく。我らの身を護りし聖なる守護よ――」
クルスが詠唱すると俺たちの全身を淡い光が包みこんだ。
「ホーリープロテクションです。これで相手からのダメージは軽減されるはず。ただし油断は禁物ですよ」
どうやらクルスが魔法で援護してくれたようだな。この場にいる護衛全員が対象になっていて肉体的に堅牢になったといったところか。
「リョウガはここは引いていろ。俺たちでやる!」
するとゴングが俺を見ながら命じてきた。手を出すなってことか。
「ゴング何言ってるんだい! まさかやっぱり根に持って……」
「違う。そりゃリョウガも一緒なら戦闘も楽になるだろうさ。だがそれじゃあリョウガ頼みになりすぎる。この程度は俺たちだけでやれるぐらいでないといけねぇんだよ!」
ゴングの判断を責めるイザベラだったが、ゴングなりの考えがあってのことだったようだな。
まぁ俺一人が出しゃばっていても仕方ないのは確かだ。寧ろゴングがそこまで考えられたのが意外だ。
「大丈夫! リョウガの力がなくても魔獣に一匹ぐらい私たちで何とかなるよ!」
そう声を上げたのはマリスだった。言うが早いかフォーアームストロング目掛けて疾駆し跳躍している。
「ちょ、無防備に突っ込んでんじゃないよ! あんた半魔なんだから魔法とかあんでしょうが!」
イザベラがマリスの動きを認めながら声を張り上げた。どうやらマリスが色々魔法を扱えると思っているようだが、マリスが使えるのは強化魔法だけだ。
今もきっと魔法で身体を強化しているのだろう。とは言え単騎で突っ込むのはいささか無謀か。
「ハァアアァアァア!」
気合を入れての一撃が魔獣の顔面を捉えた。フォーアームストロングが思わず顔を二本の手で覆う。
「どうよ!」
空中で、見たか、と言わんばかりに声を上げるマリス。だが魔獣の残りの腕が伸びてきてマリスに掴みかかろうとした。
しかし、その腕が爆発し弾かれた。おかげでマリスは難を逃れた。
「油断してるんじゃないの!」
杖を翳したパルコがマリスに叱咤した。今のはパルコの魔法だったようだな。
「三分間の闘争心!」
ここでゴングがスキルを発動させた。全身にオーラを纏ったゴングがフォーアームストロングとの距離を詰める。
「仕方ないねぇ」
イザベラもまた曲刀を片手に小気味よい動きでフォーアームストロングに接近。踊るような動きでフォーアームストロングを斬りつけていった。
ゴングもまたフォーアームストロングの足に打撃を叩き込んでいく。ゴングの働きは効果的だったようでフォーアームストロングの膝が崩れた。
「今度こそぉおぉぉぉおお!」
裂帛の気合と共に膝が落ちたフォーアームストロングの顎に宙返りしながらのマリスの蹴りが炸裂した。中々鮮やかなサマーソルトキックだな。
マリスの蹴りで魔獣はバランスを崩すも何とか踏ん張ってみせた。
「ゲイルランサー!」
そこでトドメと言わんばかりにパルコが魔法を行使。集束した風が槍となりフォーアームストロングを貫いた。
これで決まったな。地面に倒れたフォーアームストロングは息の根が完全に止まっていた。確かに俺が出るまでもなく倒しきれたようだな。
もっとも相手がこの一匹だけならだが――




