第115話 一発で終わった試合
スキルを使ったゴングは確かにかなり肉体的に強化されているようだった。数倍ぐらいには跳ね上がっていたのかもしれない。
だが――ゴングは大の字になって倒れていた。確かにスキルで強くはなったのだが、鳩尾に一発撃ち込んだだけであっさり決着がついてしまった。まぁ長引かせる気もなかったが。
「ちょっとゴング! 何あっさりのびてんのよ! 折角私が多少は褒めてやったっていうのに!」
するとパルコが猛ダッシュでやってきて寝ているゴングの頭を上げて頬に往復ビンタしていた。一体何で怒ってるのかさっぱりだが。
「君、流石に負けた相手にそれは気の毒に思えるのだが……」
モンドが苦笑気味にパルコに声をかけていた。
「いいんですよ。ほらさっさと起きなさいよ!」
「んぁ、何だ? 俺は一体どうなったんだ?」
パルコの最後の一発が村中に鳴り響いたのと同時にゴングが意識を取り戻した。
「随分とあっさり決着がついたと思ったが、あの嬢ちゃんの方が強いんじゃないか?」
「いいぞ嬢ちゃん。あんたの方がおもしれぇや」
物珍しそうに見に来ていた村人たちからドッと笑いが起きた。目覚めたゴングはわけがわからないといった顔をしている。
「う~ん、確かに随分とゴングについて熱く語っていたから逆に腹を立ててるのかもね」
マリスがやってきてそんなことを言った。どうやら俺とゴングの戦いが始まる直前まで、パルコはゴングについて饒舌に語っていたらしい。
「俺が、負けたのか、しかも一発で……」
「そうさ。見事な完敗だよ。もうあんたリョウガに偉そうなこと言えないねぇ」
ポツリと呟くゴングに向けて笑いながらイザベラが言い放った。
「ちょ、イザベラ。少しは負けたゴングの気持ちも考えた方が……」
クルスはゴングに気を使ってかイザベラに注意を促そうとしていた。
「いや、いいんだ。俺が負けたのは事実だ。しかも言い訳のしようがないぐらいあっさりとな」
俯きながら気弱な台詞をゴングが吐露した。そのまま顔をモンドに向ける。
「モンドさん。悪いが俺はこの護衛から抜けることにする。こんな無様な姿を晒してこのままってわけにはグべッ!」
ゴングは意気消沈してか仕事を投げ出すような発言をしてみせたが、その横っ面をパルコが杖で殴りつけていた。ゴングは気が抜けていたからかモロにダメージを受けているようだな。
「お、おまえ、何しやがる!」
「何しやがるじゃないわよこの馬鹿! 確かにあんたは負けたわよ。笑えるぐらいあっさりね。でもだからって受けた仕事を途中で投げ出すとか何考えてるのよ! あんたそんないい加減な気持ちでC級冒険者になったわけ!」
パルコがゴングに怒りをぶつけた。その気迫に周囲も圧倒されている。
「見た目は幼いのに結構言うものだね」
マリスが感心していた。見た目はともかくパルコの言い分はもっともだな。投げ出すぐらいなら最初から護衛依頼なんて受けるべきじゃない。
「クッ、女にはわからねぇよ。こっちはあいつに負けたら仕事をおりろとまで言ってんだ! それなのに負けた俺がおめおめと残れるかよ!」
「だったら他にやることあるでしょうが!」
そう言ってパルコが俺たちに体を向けゴングの頭を杖で殴った。
「ほら! 先ず謝る!」
「グッ! す、済まなかった。勝手に弱いと決めつけてお前のことを見下してた。本当に申し訳ないと思っている」
パルコに促されゴングが深々と頭を下げてきた。パルコに言われたからというわけではないようで、寧ろパルコに言われてきっかけが出来たといったところか。
どっちにしろ俺にはどうでもいいことだがな。特に気にもしてない。
「別に構わない。俺は依頼人に従って試合しただけだ。負けたら止めるなんて取り決めもなかった筈だからな」
「リョウガの言うとおりだ。同時にパルコの言っていることも正しい。幾ら負けたからと言って勝手に護衛を止められても困るのは私たちなのだからね」
モンドが眉を寄せて言い放った。諭すような言い方でもある。
「う、それは確かに、勝手な真似をして申し訳ありませんでした」
ゴングはモンドにも謝罪の言葉を述べていた。試合前に比べると随分と態度が変わったな。
「わかればいいのだよ。とにかくこれで互いの実力もわかったわけだし、今後の仕事もやりやすくなることだろう。結果的に良かったじゃないか」
そう言ってモンドが笑った。
「いいぞ! なんだかわかんねぇけど感動した!」
「リョウガってのまだ若いのに大した強さだぜ!」
「ゴングってのも腐らず頑張れよ~」
「パルコちゃん可愛いのに気が強いそのギャップがたまらない尊い!」
周囲の村人も湧き上がっていた。ゴングを慰める声もあればパルコを褒めたり推したりする声もあった。
そして試合も終わり俺たちは宿に戻った。それからはゴングが俺に絡んでくることもなくなったな。煩わしさがなくなったから多少はありがたいのかもな――




