第111話 トルネイルへ向けて
準備が整い、俺たちは町を出た。今回は俺たち冒険者も馬車に同乗しての移動となる。
目的地までの道のりは地図を広げて説明してくれた。俺もこっちの世界の地図の見方は理解している。目算であはるが目的のトルネイルまで距離にして三百五十kmといったところだ。
モンドの話では中二日かけて到着予定とのことだった。今回用意された馬車用の馬は特殊な馬らしく持久力が高いらしい。故に通常の馬車よりも一日の走行距離が伸びるわけだ。
距離が長いだけあり今夜は中継点の村で宿を取るようだった。ただ明日からは山越えルートとなりここではどうしても一日は野宿となる。俺たちが雇われたのはこういった山越えには凶悪な魔物や魔獣がつきものであること。
更に山賊の類もいるようで、それを警戒しての意味合いも強いようだ。
用意された馬車は三台あり一台にはモンドと娘のエンデルと護衛二人の四人。もう一台は残りの四人の冒険者が乗り込む用兼荷物用。もう一台が完全に荷運び用として機能する形だ。
依頼人であるモンドと娘のエンデルが乗る馬車に同乗する二人は交代で務めることになる。最初はイザベラとクルスが務めるようだな。
残った馬車には自然と俺とマリス、そしてゴングとパルコが乗る事となる。
馬車が動き始めてからは暫く無言の空間が続いた。俺はその方がありがたいがゴングがずっとこっちを睨みつけてきていた。沈黙が続く原因はこのゴングにもありそうだった。
「ちょっとゴング。いい加減その顔やめてよ。ただでさえ厳ついんだから空気が重くなって仕方ないわよ」
先に沈黙を破ったのはパルコだった。彼女は明るい性格のようだから重苦しい空間に耐えられなかったのだろう。
「さっきからリョウガのこと見てるよね。何か言いたいことあるの?」
「お前らはこの中じゃ一番下っ端だ。にもかかわらずそこのリョウガの余裕ぶってる感じが気に入らねぇんだよ」
マリスの指摘にゴングがぶっきらぼうに答えた。そう言われてもな。わざわざこっちが下手に出る理由もない。
「何よそれ。大体下っ端とかそっちが勝手に決めてるだけじゃない」
「お前らだけがD級。俺等はC級だ。それが証拠だろう」
「そんなのそこまで差がないじゃない」
「そうだよゴング。一段階上か下かの違いでしかないんだから」
「馬鹿いえ。お前だってわかってるだろう? D級の壁というのがある。それは多くの冒険者がD級以上には上がれず引退するか死ぬかだからだ。だからD級とC級の間には大きな差があるんだよ」
鼻息荒くゴングが語った。自分がC級冒険者であることが余程自信につながってるんだな。
「そうはいうけどあんただって去年までD級だったんでしょ? そこまで偉ぶることないじゃない」
パルコがゴングに言い聞かせるように声をだす。それを聞いたマリスが目を丸くさせた。
「去年ってそれまでD級だったならあまり私たちと変わらないんじゃない?」
「う、うるせぇ! とにかくだこの場でお前らが一番下だということは自覚しろってことだ!」
マリスにも指摘されムキになってゴングが叫んだ。まぁ確かにランクで言えば俺やマリスの方が下だろう。実際の実力はともかくとして経験値もゴングの方が上だろうからな。
「言いたいことはわかった。俺達も別にあんたと揉めたいわけじゃない。仕事になれば協力できるよう努めさせて貰うさ」
「……フンッ、わかればいいんだよ。お前らみたいな粋がった冒険者が勝手な真似して状況を悪くさせるんだからな。そこはしっかり理解して俺たちの邪魔にならないよう立ち回れよ」
言いたいことを言えてゴングは満足したのかそのまま瞳を閉じて休みに入った。
「ま、ゴングはC級に上がるまでに苦労したタイプだからね」
「よく知ってるんだね」
「私とゴングは同じ町を拠点にしているからね。仕事で一緒になることも何度かあったかな」
苦笑気味にパルコが答えた。パルコがゴング相手に憎まれ口を叩けるのもそれが原因か。
そこから先はゴングも口を出さなくなったのでマリスはパルコと色々会話していた。俺は周囲の気配を探りつつ黙っていた。今のところ特にこれといった問題が起きる気配はないかな――




