第107話 兄弟
「――というわけで、ついこないだは進化したラミアを退治してきたわけなんだよね」
結局マリスは最近のラミア退治についてまでダリバに話して聞かせていた。やれやれ話し出すと止まらない奴だな。
「やれやれ、ちょっと見ない間にとんでもねぇな。まして進化したラミアなんて初めて聞いたぜ」
「かなり珍しいというか普通じゃあり得ないみたいなんだよね。それでもリョウガの相手にはならなかったみたい。ね、リョウガ?」
俺に話を振るようにしてマリスが微笑んだ。確かに倒すのにそこまで苦はなかったがな。
「しかし、村を裏切った冒険者ってのは許せねぇな。そういうのがいるだけで冒険者の信頼が薄れるんだからよ」
「だよね! ギルドも調べてくれるらしいけど、そのせいでナツも最初私たちに心開いてくれなかったんだもん」
「まぁでも、最終的には誤解も解けたんだから良かったじゃねぇか」
マリスとダリバの間で話は随分と盛り上がっているようだな。俺からしたら終わった仕事の話なんてもう過去のことでしかないんだがな。
「ナツも最後は随分とリョウガに懐いていて、まるでリョウガが兄みたいに慕っていたよね。将来は冒険者になるなんて言っていたし」
「それは良かったな。そうやって自分の活躍を見て子どもたちが冒険者に憧れてくれるのは嬉しいもんだろう?」
ダリバが俺に同意を求めるように聞いてきた。正直それについては何も思わんがな。
「特に何も思わないぞ。大体この手の仕事は中途半端な憧れで目指す物じゃないだろう」
「おっと、手厳しいなこりゃ」
俺の話を聞いてダリバが後頭部を擦った。
「きっとリョウガは照れてるだけだよね」
一方でマリスはまた勝手なことを。
「憶測で語りすぎだ。ナツのことにしても特に何も思ってなかったわけだしな」
「えぇ本当に? 弟ができたみたいで嬉しかったりしないの?」
「あんなやかましい弟はゴメンだな」
マリスの問いかけにハッキリ答えた。そもそも弟ってタイプでもないしな。
「ふむ。そういえばリョウガには兄弟とかいるのか?」
「……何だ突然」
「いや、なんとなく気になってな」
「あ、それ私も気になるかも。私にはそういう兄弟とか姉妹とかいないからちょっと憧れはあるんだけどね」
話が唐突に俺の家族のことになった。自然と脳裏に鬼影家の面々の顔が思い浮かぶ。
「――いたが、互いに関心なんてなかったさ」
自然とそんな言葉が溢れた。家族についてなんて話す必要もなかったんだがな。
「そう、なんだ。でもいるにはいるんだね」
マリスが言った。表情からは気遣いも感じられた。口にしておいてなんだがあまり触れられたくない話題だったと感じ取ったのかもな。マリスにしては珍しく察しがいい。
「……ま、家族とは言え色々あるだろうからな。だけど、お互い無関心に見えても意外と意識しあってることだってある。ま、生きている内に腹を割って話すのも悪くないかもしれねぇな」
そう語ったダリバが淋しげに笑った。兄弟の話は唐突だったがダリバにも何か思うところでもあったのかもな。
「よ! ダリバまた来てやったぜ」
するとまた聞き覚えのある声が背後から聞こえてきた。そしてマリスの横に当然のように座り笑顔を向けてくる。
「何だあんた達も来てたんだね。久しぶりじゃないか~」
そう言って屈託のない笑みを浮かべてきたのはスカーレッドだった――




