第106話 引退者との再会
「う~んちょっと久しぶりに感じるねこの空気」
アイランの町につくなりマリスが伸びをして言った。久しぶりといってもあれから二ヶ月ぐらいか。違いと言えば気温が上がっていてそれなりに暑くなってきたぐらいだな。
こっちの世界にも四季に近いものはある。言い方が違うぐらいか。こっちでは時期を四大精霊に合わせているからだ。春は風、夏は火、秋は土、冬は水だ。
もっともこれは精霊の基本となる四つを利用しているという話で精霊自体は他にも細かい種類があるらしい。
面倒だから俺は育ってきた日本に合わせて変換しているが。今はそれで言えば夏だ。気温は火の精霊の影響がどれだけ及ぶかでも変わるようで、このあたりはそこそこで気温は三十二度ぐらいまではあがるようだった。
このあたりの知識は冒険者をしながら聞いたり調べたりしている間に知っていたんだがな。
「ふぅ。でも暑いね。そろそろ服も変えた方がいいかな?」
マリスが言った。もともとそこまで厚着では無い気もするけどな。まぁ冒険者としてもそれなりに稼いできているから自分の衣装ぐらいは好きに選ぶといいだろう。
「そうだ! 次の依頼で向かう町なら服も豊富そうだし色々選べるかも! リョウガ一緒に選んでよ」
「それぐらいは自分で探せばいいだろう」
「もう冷たいなぁ。大体リョウガだってそろそろ着るものも新調した方が良くない?」
「…………」
それに関しては一理あるかもしれない。これまではあまり必要性を感じてなかったが、今後のことを考えて装備品を見てみるのもいいかもしれないな。
「どちらにしても仕事が優先だ。空き時間があれば考えるけどな」
「それならその時は一緒に回ろうね」
「だから何で一緒の前提なんだ」
買い物ぐらい一人でも出来るだろうに。子どもじゃないのだから一々俺がついていかなくてもいいだろう。
「でも、空き時間も限られているだろうし仕事も一緒なんだから二人で回った方が効率的じゃない?」
空き時間か……確かにそれが限定的ならマリスの考えにも一理あるかもしれないがな。
「空き時間しだいだが、その時はまごまごしている時間はないぞ。さっさと選んでしまわないとな」
「ま、まぁそこは善処するわよ」
マリスが答えた。視線を逸らしてな。こいつは時間が掛かりそうだな。時間に余裕があるならやはり別々がいいだろう。
そんなことを考えている間に冒険者ギルドについた。結局依頼者との待ち合わせの時間より早く着いてしまったからな。他にやることもないし寄ることにした。
そしてギルドに隣接された酒場に入ると食器を磨くダリバの姿があった。
「あ、本当にダリバがマスターしているよ!」
「何だ藪から棒に。たく、久しぶりにあったと思ったら変わらねぇなお前らは」
ダリバが俺達に気が付き一旦手を止めた。顔は当然そのままだがダリバの服装は大分変わってるな。
「その格好、中々様になってるじゃないか」
「あん? そんなおべっかは……いやリョウガはそんなタイプじゃねぇか。ありがとな」
頬を掻きながら照れくさそうにダリバが答えた。
「うん。私も似合ってると思うよ」
「そうかい。マリスもありがとうな。ま、俺としてはついでに何か注文してくれると嬉しいけどな」
「そうだな。適当に飲み物でも一つ頼む」
「私もそれで、あと何か――」
マリスは食べ物も幾つか頼んでいた。よく食うな。まぁダリバにとってはありがたいか。
「あいよ。ちょっと待ってな」
注文を聞いてダリバが動き出した。以前の依頼で右足を失い今は義足だが器用に動いている。
「しっかし、まさかお前たちが店に来るとはな」
ダリバが飲み物と料理を運んできたついでにそう言ってきた。
「仕事の都合でこっちに来たんだ。時間が空いたから寄らせてもらった」
「ハハッ。相変わらずそういうところは嘘がないな。だが、ま、冒険者としては上手くやってるみたいだな」
そう言ってダリバが朗らかに笑った。俺たちが仕事でこっちに来たと言ったから冒険者を続けていると判断したんだろう。
「うん。おかげで私たちもD級に上がれたんだよ」
「それは普通にスゲェな。その若さでD級とは大したもんだぜ」
マリスの話を聴きダリバが感心していた。それからもマリスはこれまでのことをダリバに話して聞かせていて、ダリバも興味深そうに話に耳を傾けていた――




