第105話 指名依頼してきた相手
「それで、どうする受けるか?」
「えっと内容を聞いてからでないとなんともいえないよねリョウガ?」
マリスが俺に顔を向けて聞いてきた。マリスにしては冷静な判断だな。
「確かにな。一体どんな依頼なんだ?」
「あぁ、内容は護衛だ。依頼者はイエル・モンドだ。相手は以前お前たちが受けた商人の護衛依頼の時にアイランの町で知り合ったと言っているが覚えはあるか?」
その話を聞いて俺は一人の男の顔を思い浮かべた。確かにあの男はモンドと呼ばれていたな。
「あぁ。確かに覚えがある」
「そっかリョウガが助けた相手だよね」
マリスも思い出したようだな。こっちの世界の暗殺者らしき相手から狙われていた相手だ。命を助けたことで確かに仕事についても話していたが、ただのリップサービスではなかったわけか。
「それでか。確かにそういう理由があれば指名で依頼してくるのもわかるな」
「……相手のことはわかったが、護衛というのは前の商人のときと似たような内容ということでいいのか?」
得心が言ったように頷くギルドマスターに俺は更に質問した。
「大体そうだが、今回はもう少し遠出になるのと相手はオークションに参加するようだからな。依頼を受けるなら十日以上は拘束されることになるだろう」
十日以上としてるのは移動時間も含めて余裕を保つ必要があるからだそうだ。依頼料に関しては拘束日数である程度上乗せもあるようだが、基本報酬として金貨百枚は保証されるらしい。
「オークション……それってどんな物をやり取りするの?」
マリスからも質問が飛んだ。どうやらマリス自身がオークションに興味あるようだな。
「受けるなら向かう先はトルネイルとなる。内海に面した場所で王国の主要な商業都市としても知られている。それだけに様々な品がやり取りされオークションでも他で見ないような品が出品されることもあるな」
「……薬も出品される?」
マリスの言葉にギルドマスターの眉がピクリと動いた。
「そうか。元々は白蝋病の薬を求めていたんだったな。そうだなオークションならもしかしたら出品されてる可能性はあるのかもしれない」
「――ッ!? リョウガ! 私この依頼受けたい!」
マリスが俺に顔を向けて訴えてきた。真剣な瞳だな。マリスにとってはそれだけ重要ということだろうが。
「受けてもいいがマリス。仕事はあくまで護衛だ。薬を手に入れることじゃないんだからな」
一応釘を刺しておく。目的を履き違えては本来の仕事が疎かになるからな。
「勿論仕事はしっかりこなすよ」
マリスが真剣な目で頷いた。本人にやる気はあるようだがな。
「……マリス。一応言っておくがそのオークションでは奴隷のやり取りもある。勿論合法な奴隷だが、それでもいけるか?」
今度はギルドマスターがマリスに確認した。奴隷か。マリスは元々は騙されて奴隷にされていたんだったな。だからこそ奴隷を扱うことに忌避感を覚えている可能性があると判断したわけか。
「……そこは割り切るよ。仕事だもん。大丈夫」
マリスが自分に言い聞かすように答えた。ギルドマスターが一つ頷き俺に顔を向けてきた。
「それで、リョウガも依頼を受けるということでいいか?」
「……まぁそうだな。仕事があるなら断る理由がない」
「わかった。それならとりあえず三日後の昼に相手との待ち合わせ場所に向かってくれ。場所は以前依頼で向かったアイランの町で、そこの紅茶の旨い店で待っているとのことだ」
紅茶の旨い店か。あのカフェの事だな。
「三日後ならちょっと余裕があるね。そうだ! ちょっと早めに行って酒場を見に行って見ようよ」
マリスが俺にそう提案してきた。早めに乗り込むのは俺としては基本だが、なぜ酒場かという話だ。
「おお、それはいいかもな。この間冒険者ギルドに酒場が出来たようだしな。ダリバもマスターとして頑張っていることだ。顔出してやれば喜ぶと思うぞ」
ダリバ――そういうことか。冒険者を引退後は酒場でマスターをすると言っていたな。
「……まぁ余裕があったらだな」
「うん! じゃあリョウガ。早速準備しにいこ!」
「おう。しっかりな。さてと俺は一休み――」
「ダメですよ。本部への連絡があるんですから」
「はぁ、やっぱりしないとダメか――」
やれやれと後頭部をさするギルドマスターを尻目に、俺とマリスは一旦ギルドを後にした。それからある程度必要な物を揃えその日は宿で休んで翌日、俺たちはアイランの町に向かった――




