第101話 進化VS解放
「どうだい! この毒は前のより遥かに強力さ。流石にこれを喰らえば一溜りもないだろうね」
「今頃ドロドロに溶けちまってるかもねぇ。本当は頭から喰ってやりたかったけどその分、村の連中を喰い付くしてやろうかねぇ」
「嬉しそうなところ悪いが、どれだけ強力でも俺には毒は効かないんだよ」
煙の中から現れた五体満足な俺を見て、ラミアたちが驚きの表情を作った。
「な! あの毒を受けても何ともないのかい!」
「そんな馬鹿な! 今の私の毒は炎さえも侵食して消し去る! それなのに!」
二体のラミアが動揺しているのが手に取るようにわかるな。確かに奴らの毒は俺の炎さえも消し止めた。その上、毒の影響で周囲の壁や地面も溶解してきている。
毒としては確かに相当強力だろう。だが俺には毒そのものが効かないんだ。毒の強弱に関係なくな。
「クッ、こんなこと! 私は進化した筈だ!」
「落ち着くのよ! 確かに強い――でも私たちには進化した事で得た再生力がある! これがある限り絶対に負けない!」
今度はラミアの方に余裕がなくなってきているな。唯一の頼りは再生力ということか。
「悪いがそれも大体わかった。確かに再生力は上がってるようだがそれも無敵ではないのだろう?」
「何を馬鹿な」
「お前は見ただろう。私たちが何度でも再生しているのを」
二体のラミアの言う通り確かに見た。だが奴らの尻尾が変化した大蛇は俺の炎で燃え尽きた。つまり奴らの再生も絶対ではない。
そもそも二体に分かれた影響で力が分散している時点でそんな気はしていたんだがな。制限なく再生出来るならそっくりそのまま分裂出来た筈だ。
そうとなれば後はひたすら燃やせばいずれは燃え尽きるかもだが――その度に毒を吐かれるのも鬱陶しいな。
「ふぅ。やっぱり解放が一番か」
「――解放? 何を言ってる?」
ラミアたちが訝しげにこっちを見てきた。
俺は全身に力を込めた。肉体の変化を肌で感じた。これまでと違い今度は俺の全てを解放する。
「な、何だいその姿は!」
「お、お前、やっぱり人間じゃなかったんだね!」
解放した俺を見てラミアが化け物でも見るような目で俺を見てきた。まぁそれも仕方ないか。今の俺の姿は日本で言えばまるで鬼そのもののようだろうからな。
上背も伸びおかげで視点も移動した。今の俺の体格はラミアとそう変わらないだろう。いや膨張した筋肉も相まって見ようによってはラミアよりも巨大に感じるかもな。
「クッ、こんなの見掛け倒しに決まってる!」
「そうさね。私等に掛かればお前なんて!」
「そうかい?」
そして――勝負は刹那の間で決まった。ラミア本体の頭だけが俺の足元に転がっている。それ以外は再生不能なまでに叩き潰され痕跡だけが残されていた。
「馬鹿な、進化した私でさえこうもあっさりと――」
頭だけになったラミアが狼狽していた。まぁ気持ちはわからなくもないがな。ただこの状態でも再生力は効いているらしく首から徐々に肉が付き始めている。
とは言え流石に頭だけの状態から再生するまでは時間が掛るのだろう。勿論俺もそれを黙って見ているつもりはないが。
「お前、そこまで強いのになんで私の頭だけ残した! 舐めてるのかい!」
「そんな気はないさ。ただ気になってな。お前らは進化したと言っていた。そのキッカケは間違いなくあの触手だ。そしてあの時お前は誰かに向けて叫んでいたな? それは誰だ?」
俺が本体の頭だけ残したのはこれを聞きたかったからだ。もし俺に敵意があってしたことなら聞き出して片付けておきたいんだが。
「フンッ。そんなもの素直に話すと思ったかい?」
「だろうな。じゃあもういいか」
そう言って俺はラミアの頭を踏みつけた。
「思い出したよ! そうだ奴はエボと名乗っていたのさ! そして私に進果実とやらを試して欲しいって持ちかけてきたのさ!」
……わりとあっさり白状したな。俺としては聞けたら儲けもの程度ではあったんだがな。
「そいつはなんでお前を進化させたんだ?」
「知らないよ。よくわからないオスだったしね。何か錬生術師とか言っていたっけねぇ。とにかく唐突に現れて私に進化の話を持ちかけてきたのさ」
なるほどな。こいつの話からは嘘は感じられない。しかしそれで行くと俺を狙ったと言うよりはラミアの進化そのものに興味があったってことか。
どちらにせよ突然やってきたような相手らしいからな。これ以上こいつから聞き出せることはないだろう。
「そ、そうだ! なんなら私があんたに協力するよ。そいつは私もいけ好かないと思っていたんだよ。だから――ッ!?」
全てを聞くことなく俺はラミアの頭を踏み潰した。最後にどうして? とでもいいたげな目をしていたが、別に俺は助けるなんて一言も口にしてないからな。
そもそもの依頼が村に害をなす存在を始末することだったわけだしな。さて、これでとりあえず依頼は終わったが――エボか。もしラミアの進化に興味があったならこの状況も見ている可能性が高いということか。
それらしき気配は感じられないが、もし手があるとしたら――俺は一つ思いついたが、やめた。流石にそれは節操がなさすぎる。
だから俺は再び姿を変え洞窟を後にした。とにかく依頼は片付いたわけだからな――




