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転生悪魔の異世界革命~上級悪魔に転生した俺は、全てを憎み世界を破壊する~  作者: みなもと十華@書籍&コミック発売中


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第6話 教練

 アベルたち候補生は、馬車で校外教練場に向かっていた。


 校外教練とは、森林や渓谷で実戦を想定した陣地を築き、お互いのチームの旗を取り合う訓練である。

 魔力で銃弾を発射する魔装式歩兵銃まそうしきほへいじゅうを使用し、模擬弾で戦い、旗を取られるか全滅するかで勝敗が決まる。いかにチームが協力し合い攻撃と防御のバランスを考え連携できるかが重要だ。



「いいか、貴様ら! チームの中でリーダーを決め、リーダーの指示に従い作戦を立てろ!」


 校外教練場に到着すると、すぐにライラ教官の説明が入った。リーダー決めは重要だ。


 アベルはチームメイトを眺めながら考える。


(これは、サバゲ―のフラッグ戦のようなものだな。俺はサバゲ―はやったことが無いが、これはチームワークが最も重要だろう。ニコラは優秀だし抜け目がない、ビリーは真面目過ぎるきらいがあるが、成績も優秀で連携も問題無さそうだ)


 アベルの視線がサタナキアに留まる。


(問題なのは王女だな。いまいち何を考えているのか分からん)


「あのぉ、アベル君」


 作戦を考えているアベルのところに、エレアノーラ・パイモンが話し掛けてきた。


「どうかなさいましたか、パイモン伯爵令嬢」

「もう、堅苦しいぞっ! 私のことはぁ、エレナって呼んでね」

「分かりました。それでエレナ、何か?」

「リーダーは、三つの理由でアベル君が良いと思うの」

「ほう、理由を聞かせてもらえますか?」


 アベルは目を細くした。


(この巨乳お嬢様、何かデキる女キャラっぽいことを言い出したぞ……)


 エレナは指を一本ずつ立てながら説明を始める。


「一つ、この士官学校は階級や爵位に拘る人が多く、一般的に爵位の上の人がリーダーを務める通例になっているの。平民のビリー君や男爵家のニコラ君がやると波風立てて後々面倒なのよ」

「なるほど」


 アベルは感心したように頷くが、視線が彼女の胸に行ってしまい戸惑う。


(確かに、ゲリベン辺りが絡んできそうだな。エレナ、おっぱ……に目が行ってしまうが、意外と頭が良いな)


「二つ、このチームで伯爵家なのは私とアベル君だけど、私はやりたくないしアベル君は成績も優秀だからアベル君で良いでしょ」

「つまり、やりたくないのか」


 そこでアベルは気づいた。忘れていることが一つあると。


「三つ、王女様が、さっきから絶対当てるなよって顔してるから」

「ん?」


 アベルは、出発時から存在感を消している王女に視線を移す。サタナキアは、完全に戦意喪失するかのように塞ぎ込んでいた。

 これにはアベルもビックリだ。


(この王女……学校でも全くやる気が無いし、教練もサボりがちだし、大丈夫なのか?)


「王女殿下、ご気分でも悪いのですか?」

「いや、ワシはいいから、お茶の男……そなたがリーダーをやるがよい」

「はい、殿下のご命令とあらば、若輩じゃくはいながら謹んで務めさせていただきます」

「うむ……」


 サタナキアは最初からやる気など無かった。

 そもそも、争い事が大嫌いなのだ。


(ううっ、何でワシが魔装式歩兵銃で撃ち合いなどせねばならぬのか……。いくら模擬弾とはいえ、当たったら痛そうで怖いのじゃ……。父上が『ノブレス・オブリージュ』だかなんだかで士官学校に行けなどと言うからこんなことに)


 ブツブツと、誰にも聞こえないように愚痴るサタナキアだ。



 ◆ ◇ ◆



 ライラ教官の号令により、チームごとに整列した。教練の始まりだ。


「第一試合はアベルチーム対ディートリヒチーム! 各々所定の位置に着き開始の合図で戦闘開始せよ!」


 アベルは『ディートリヒって誰だよ』と思ったが、どうやらゲリベンストの名前のようだ。見た目と性格はアレだが、名前だけは大層なものだった。



 アベルたちが所定の陣地に到着した。

 小高い丘の上に陣地があり、正面は開けた道で左右が森林になっている。

 正面から最短で進めば、早く敵陣に到達できるだろう。しかし、平地を進めば周囲の森から狙われやすい。

 迂回して森林を進めば見つかり難いが、今度は時間が掛かる。


 これは心理戦だろう。

 相手を誘き寄せてから、隠れている兵により一網打尽にされるかもしれないし、前線で戦っている間に、遠く迂回してきた敵に陣地を取られるかもしれない。

 だが、『相手がゲリベンなら分かりやすい』とアベルは考えていた。


(これはアスモデウス流軍学『島津義久しまづよしひさ釣り野伏のぶせ』だ!)


 ※アスモデウス流軍学『島津義久釣り野伏』:戦国武将、島津義久の考案した囮を使った包囲殲滅戦法を元にした作戦である。

 部隊を三つに分け、左右に部隊を潜ませておき、正面の部隊を前進させ、負けを装って後退。敵を誘い込んでから反転し、左右の部隊と共に包囲殲滅する作戦である。因みに、連携が上手くいかないと難しい戦術だ。


「俺の考えた作戦はこうだ」


 アベルは釣り野伏を皆に説明する。


「相手が血気盛んで猪突猛進なゲリベンスト卿だからこそ有効な作戦だと思う。これにはビリーの協力が必要なのだが」


 ビリーの方を向いたアベルが返事を待つ。


「はい、ボクもアベル君の作戦は有効だと思う。何でも言って下さい」

「では、作戦はこうだ――――」




 ズダァァァァァン!

 試合開始の合図が上がると同時に、先行するアベルとビリーが正面を走る。


 配置――――

 正面部隊:アベル、ビリー

 右側面:アリサ

 左側面:エレナ

 陣地防御:ニコラ、サタナキア


 それぞれの配置についたアベルチームの皆が、作戦を頭の中で反芻はんすうする。


『先ず俺とビリーが先行し、敵部隊と交戦する。そして、すぐにそれっぽく退却。先日の剣術教練でビリーにボロ負けしたゲリベンは、向きになって追いかけてくるはずだ』


 地面に書いた地図に石を置いてアベルは説明する。


『所定の位置まで誘き寄せたら、あらかじめ潜ませておいたアリサとエレナが、斜め後方から攻撃。俺たちも反転して攻撃だ』


 ――――――――




 中央を走っていたアベルが横のビリーに話しかける。


「そろそろ敵と遭遇する頃だろう、少し脇に寄って様子を見よう」

「了解」


 暫くすると、聞いたことのある不快な声が二人の耳に響いてきた。


「おい、上級魔国民の俺様が来てやったぞ! 早く出てきて勝負をしろ! がははははっ!」


 アベルは眩暈めまいがした。


(何だアイツは? 実践を想定した訓練で大声出して敵に自分の居場所を教える奴がいるかよ! いくらコネで入ったとはいえアホすぎるだろ。あんなのが軍の上層部になったら、部隊が全滅しそうだぞ……)


「ここから確認できるのは四名ですね」


 ビリーが岩陰から覗いて確認した。


 ゲリベンストが子分を連れて、大声を出しながら中央の開けた場所を歩いているようだ。

 彼らが岩陰に隠れながら進んでいるのを見て、アベルは安堵してしまう。

 何の遮蔽物しゃへいぶつも無い場所を堂々と歩かれたら、それこそアホらしくてやる気が削がれるというものだ。


「まあ無いだろうが、念のため森の中に伏兵が潜んでいるのを警戒しよう。コチラが撃った所を狙われるかもしれないからな」

「はい」

「ここから射撃して、数を減らしてから作戦に移ろう」

「了解です!」


 アベルが木の陰から魔装式歩兵銃を構えて、魔力を込めて狙いを付ける。


 魔装式歩兵銃は、一般の兵士が扱える程度の魔力で弾丸を撃てるように作られた銃だ。


 人族との長い抗争の中で、技術革新により生み出された技術だ。

 大昔の魔族は、魔法を直接発動させ敵を攻撃していた。しかし、魔法の発動に時間が掛かったり、効率が悪かった為、即攻撃可能なこの銃が開発されたのだ。

 魔力が高く潜在力のある者は、更に大型の魔装式榴弾砲まそうしきりゅうだんほうのような、大口径の兵器の使用も可能である。


 ダンッ!


 アベルの撃った模擬弾が、岩陰から見えた一人の男に命中した。


「ぐわああっ!」


 撃たれた男に模擬弾のペンキがベットリと広がり、戦死判定となった。

 警戒していた伏兵も居らず、射撃ポイントを狙われることも無かった。


「よし、行こう」

「了解」


 アベルたちは一斉に走った。


「待て! くそっ! 庶民めが!」


 まんまと罠に掛かったゲリベンチームが、大声を上げながら後を追いかけてきた。

 岩陰や木々などの遮蔽物を使いながら、殲滅ポイントまで誘き寄せるのだ。


「よし、この辺りだな」


 ダンッ! ダンッ!

 ダンッ! ダンッ! ダンッ!


 アベルたちが反転迎撃するまでもなく、ゲリベンチーム三人はアリサとエレナに後ろから撃たれて全員戦死判定になった。

 前ばかりを警戒して岩陰に隠れていた三人は、がら空きの斜め後ろから二人に狙撃されたのだ。


 予想以上の結果に、アベルの表情も緩む。


「あの二人、優秀だな。やるじゃないか」

「対戦相手の男性より、ずっと強い戦士ですね」


 四人は合流し、アベルは次の行動へと移る。


「念のためアリサは陣地に戻って、ニコラと一緒に旗を防衛してくれ。迂回してくる敵に注意して」

「了解っす!」

「俺とビリーとエレナは、このまま敵陣に向かおう」

「了解」

「おー!」



 結局、敵陣に残っていた女子二人は、アベルたちが到着すると簡単に降参してしまった。

 何でもゲリベンストたちが、女子が止めるのも聞かずに突っ込んで行ってしまったそうで、これはお疲れ様としか言いようがない。


 こうしてアベルたちは校外教練で好成績を収めることができた。



 成績発表が終わると、ライラ教官は気遣うようにサタナキアへと向かった。


「殿下、大丈夫でしたか?」

「お、おう、問題無いのじゃ」

「それは何よりです」


 そう答えるサタナキアだが、ライラ教官が離れると独り言をこぼす。


「うううっ、敵が攻めて来なくて良かったのじゃ。もう、こんな危険なのは嫌じゃ……」



 一方、今回同じチームになったエレナは、アベルに興味津々だ。


「アベル君って凄いわね。私、ちょっと興味あるかも」


 意味深な顔をしたエレナが、アベルの顔を覗き込んだ。


「ふっ、このくらい楽勝だな」


 アベルは涼しい顔をしながらも、心の中では動揺が隠せない。


(ちょ、待て待て待て! 胸が近い! 何だこの巨乳は! いきなり馴れ馴れしいぞ! 俺は、こういうエロそうな女が苦手なんだ!)


 そう、アベルは女性が苦手だった。


(くっそ、それもこれも全部、俺の前世の記憶が悪いのだ! 内心動揺しまくりなのを隠して涼しい顔をするのも大変なんだぞ!)


 果たして、アベルの女性恐怖症は克服されるのだろうか――――



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