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転生悪魔の異世界革命~上級悪魔に転生した俺は、全てを憎み世界を破壊する~  作者: みなもと十華@書籍&コミック発売中


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第3話 王女

 王都デスザガートにある魔王軍士官学校は、広大な敷地に左右対称に建つ、宮殿のような壮麗な建物であった。


 それは、王国中から優秀な若者を集め、将来の幹部候補を育成する為にある。士官学校を卒業した候補生は、軍の入隊時に少尉からスタートし、実績や武勲を上げ栄達する仕組みだ。


 しかしその実態は、真に実力のある者が活躍するのではなく、大貴族や多額の寄付金をする者が、コネや忖度そんたくによって上層部を占める、腐った組織だった。



 今日から、新入生の本格的な授業が始まろうとしていた。一般教養の他に戦史、戦術学、剣術、馬術、校内教練、校外教練などである。


 アベル・アスモデウス

 漆黒の髪と黒い瞳の鋭い目、平均より少し高い身長に細身の体。

 強い潜在力を持つ上級悪魔として生まれた彼は、その高い魔力と潜在力により士官学校Sクラスというエリートの仲間入りをしていた。



「何だとゴラァ!」


 アベルが講堂へと向かっていると、何やら罵声のような声が聞こえてきた。


「何だ、この不快な声は」


 アベルは眉をひそめる。彼は、前世の上司のような、罵声を飛ばすクズが大嫌いなのだ。


 アベルがSクラスの講堂に入ると、如何にも低能そうな大貴族のボンボンが喚き散らしているところだった。


「ああー臭ぇ臭ぇ、庶民の臭いがするぜ! 何で俺様の所属するSクラスに、低級魔国民が居るんだ! こんなカス共と同じ空気が吸えるか! 俺様はゲリベンスト侯爵家の上級魔国民だぞ! 俺の爵位を言ってみろぉおおっ!」


 どうやら騒ぎの原因は、親のコネでSクラスに入った下品な侯爵子息のようだ。

 この吠えている上級魔国民とやらが、実力で入った平民出身の候補生を、理不尽な理由で罵倒しているのだろう。

 

(まったく、何処の世界にもコイツみたいなクズがいるものだ。人類滅亡させようとしているが、先にこのようなゴミを掃除しなくてはならないのかもしれないな)


 尚も喚き散らしているゴミに対して、アベルは流麗な仕草で近づいていった。


「如何いたしましたかな、ゲリベン卿」

「ゲリベンではない! ゲリベンストだ! 貴様は何だ!」

「申し遅れました。アスモデウス伯爵家のアベルと申します」

「ふんっ、伯爵家か! まあ、上級魔国民だな。だが、俺の方が上だ! 俺の爵位を言ってみろ!」


 相変わらずゲリベンストは雑魚キャラっぽいセリフを吐いている。そもそも自分の爵位ではなく、それは親の爵位だろう。


「まあまあ、そう熱くならずとも。ゲリベンスト卿は名立たる大貴族、武勇の誉れ高き名門の御曹司であるのだろ」

「勿論だ! 俺様は大貴族の上級魔国民だならな」


 ゲリベンストは胸を張るが、アベルは冷静に話を続ける。


「ならば、今日の校内教練で、庶民の彼と勝負をして叩きのめせは良いではないか」

「なるほど、それは良い。逃げるなよ! そこの庶民! がははははっ!」


 ゲリベンストは意気揚々と笑いながら去ってゆく。


(ふっ、愚か者め! 庶民でありながらSクラスに入れるのだぞ。その男はトップクラスの実力が有るということではないか。何も知らない大貴族のボンボンは、教練で叩きのめされ大恥をかくがよい!)


 アベルは心の中でほくそ笑んだ。


「勝手に決めてしまったが、これで良かったかい?」


 ゲリベンストが去ったことで、アベルは庶民悪魔に顔を向けた。


「俺はアベル・アスモデウスだ」

「あ、はい。僕はビリー・フォルカスです。ありがとうございます。アスモデウス卿。助かりました」


 ビリーと名乗った男は、実直さを絵に描いたような真面目そうな男だ。

 平民でありながら貴族が多い士官学校に入学できたのは、なかりの実力が有るとみて良いだろう。


「アベルで構わないよ。ビリー」

「はい、ありがとう……アベル君」



 その騒ぎを遠くから隠れ見ている候補生がいた。

 小柄で頼りなげな印象の少女。魔王の一人娘であるサタナキア・ルシフェルである。

 柱の陰に隠れガタガタと震えながら。


「うううっ、何でワシが学校なんぞに入らんとならぬのじゃ……ずっと城の部屋で静かに本でも読んで過ごしていたかったのに」


 実はこの王女、コミュ力が壊滅的な陰キャだった。


「しかも、あんな怖そうなヤツらがいるクラスなんぞに入らねばならぬとは……最悪じゃ……」


 サタナキア、受難の日々が始まった。



 ◆ ◇ ◆



 Sクラスの全候補生が講堂に揃い、授業がスタートした。

 教鞭を執るのは、強気な顔をした女教師。教壇に上がり、鞭のような指示棒を振るう。

 

「私が、このクラスの教官であるライラ・エウリノームだ! これから貴様らを鍛え上げ、一人前の士官になってもらう!」


 ライラと名乗った教官は、長身でグラマラスな大人の女性で、鋭い目つきと吊り上がった眉が気性の粗さを物語っている印象だ。


「今日は、貴様らの実力を見る為に、校内教練を行う! 着替えて教練場に集合だ!」


 ライラの声で、生徒は一斉に移動を開始した。



 ◆ ◇ ◆



 アベルは教練場に続く下駄箱で、王女であるサタナキアを待っていた。


(ふっ、これはチャンスだ。あの小娘に取り入りコネを作る為のな! 俺の前世の知識をフル活用して、必ず取り入ってみせてやる!)


 そう、アベルは魔王の娘と親睦を深め、将来のコネにしようとしていた。


(先ずは、アスモデウス流軍学『木下藤吉郎きのしたとうきちろう草履取ぞうりとり』だ!)


 ※アスモデウス流軍学『木下藤吉郎草履取』:豊臣秀吉が、まだ木下藤吉郎と名乗り草履取りをしていた頃の、出世話を使った作戦である。

 冬の寒い夜に草履を温めて織田信長に気に入られたという、真偽不明の逸話を元にしている。




 しばらくすると、サタナキアが下駄箱にやってきた。自分の下駄箱を覗いてオロオロとする。


「えっ、えっ、ワシの靴が無い……何でじゃ……もしかして、イジメ? ううっ、初日なのに泣きそう……」


 今にも泣き出しそうなサタナキアの前に、アベルは颯爽と登場した。


「王女殿下、靴をどうぞ。懐に入れて温めておきましたぁぁぁ!」


 アベルは木下藤吉郎に成り切り、サタナキアの足元に靴を差し出す。


(ふふっ、完璧だ! 俺の戦略に間違いは無い!)


「うっ、ううっ、うううっ……」


 サタナキアは、今にも泣き出しそうな顔をして震えている。


「ん? どうなされました? 王女殿下」

「うわあああぁん! イジメか? 変態なのか? 臭いを嗅いだのか?」

「えっ……」

「もう嫌じゃぁぁぁぁぁ!」


 サタナキアは走って逃げてしまった。

 ひゅぅぅぅぅぅぅぅ――――



「な、何故だ!? 俺の戦略は完璧だったはず! 何故、失敗した!」


 アベルは、一人下駄箱に取り残された。

 作戦は失敗だったようだ。



 アベルが教練場に到着した時には、すでに授業は始まっていた。


「遅い! 貴様、何をもたもたしておるか! 前に出ろ!」


 ライラ教官の檄が飛ぶ。


「はっ」

「初日から遅れて登場とは大物のつもりか?」

「いえ」

「まあよい、私が直々に指導してやろう」


 ライラ教官が直々に個別授業で鍛えてくれるようだ。

 アベルは教練用の剣を持ち、彼女の正面で構える。


「来い!」

「はい!」


 ガシィーン!


 アベルは踏み込み、上段から一撃を加える。

 しかし、ライラは剣で受け流し、踊るような華麗なステップで踏み込んでくる。さすがSクラスの教官をしているだけあって、剣の技術も体捌たいさばきも間合いの取り方も超一流である。


 Sクラストップレベルのアベルであっても、防御が精一杯で付け入るスキが無い。


「くっ、強い! だが!」


 キィーン! ズバッ! ズダダダズバッ!


 アベルは、ライラの打ち込みを受けた瞬間に引き技で上段へ打ち込み、そこから怒涛の連撃を入れる。

 目にも留まらぬ速度の技の応酬をし、お互いに間合いを取ったところで止まった。


「貴様、名前は?」


 ライラの口角が上がる。感心するように。


「アベル・アスモデウスであります!」

「よし、アベル、合格だ! 下がって良し!」

「はい」



 教官直々の教練を終え戻ったところに、二コラが笑顔で話しかけてきた。


「凄いじゃないか。あのライラ教官と互角の打ち合いをするなんて」

「互角ではないさ。あの教官、まだ本気を出してないようだ」



 教練場では次の試合が始まっていた。

 大貴族のゲリベンストが、庶民のビリー・フォルカスと練習試合だ。


 しかし、それは試合と呼べるようなものではなく、ビリーの打ち込みをゲリベンストが体で受けまくっているだけの代物だった。


「ぐはっ、待て! 俺は上級魔国民だぞ! 手加減せんか! 俺の爵位を言ってみろ!」


 ゲリベンストは見苦しく意味不明な命令をしている。

 それを見たアベルは、煽るように声を上げるのだった。


「ゲリベンスト卿、今こそ侯爵家の威光を示す時ですぞ!」

「い、いや、しかし……」


 アベルの声援を迷惑そうな顔で受けたゲリベンストだが、反撃の気力も残っていない。

 それどころか、ビリーの気迫に尻込みする始末。


「行きます!」

「ひぃいいっ! 降参、降参だ!」


 ビリーが踏み込もうとした時、ゲリベンストは呆気なく降参してしまった。

 無様なゲリベンストを見たアベルは、小さく肩をすくめた。


(まあ、こんなもんだろ……。しかしあのビリーという男、なかなか強いな。それより、何処かに逃げてしまった王女を何とかしなくては……)


 本当は教練を眺めている場合ではなく、逃げてしまった王女の攻略をしたいアベルだった。



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