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転生悪魔の異世界革命~上級悪魔に転生した俺は、全てを憎み世界を破壊する~  作者: みなもと十華@3/25二作同時発売


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第32話 軍学

 アベルたちを乗せた車がアンテノーラに入った。

 人族から鹵獲ろかくし、限界までエンジンも車体も酷使したのだ。戦闘でボロボロになり、燃料もギリギリだった。


 街に入ったアベルは、すぐにローラを病院へ連れていった。ビリーも傷だらけで、治療することとなる。


 幸いにもビリーの治癒魔法のお陰で、ローラの傷の経過も良く、栄養輸液剤投与だけで回復するとの話だ。

 これにはアベルも安どの表情を浮かべる。


「良かった……ローラ……」


 ベッドに寝ているローラの髪を撫でながら、アベルが呟いた。


(これで一先ず安心だ。だが、敵の大軍が迫っている。補給を終えたら大攻勢でここに迫るはずだ。それまでに準備を整えねば)


 病室を出たアベルは、廊下で待っていたサタナキアに話しかける。


「陛下、これから軍司令部に向かいます。手筈通りにお願いします」

「う、うむ……じゃが、本当に良いのであろうか?」


 サタナキアは不安そうな顔で答えた。


「今は緊急時なのです。この作戦には多くの魔族の命がかかっているのですよ」

「分かったのじゃ。そなたの言う通りにするのじゃ」


 迷っていたサタナキアだが、アベルの熱意に押し切られた形だ。

 失政続きで自国に大被害を出している彼女は、何度もアベルに助けられてきた。彼に頼るしかない心境なのだろう。



 ◆ ◇ ◆



 アンテノーラ駐留第二軍司令部の建物に入るアベルたち。サタナキアは、まだフードを被らせて目立たないようにさせていた。

 門番をしている兵士がアベルの階級章を見て敬礼する。


「私は魔王軍特殊連隊所属、アスモデウス中佐である。緊急の要件がある。至急、司令官のアザゼル大将に面会したい。これは魔王陛下からの最重要任務である!」


 アベルがそう告げると、門番の兵士が急ぎ中へと報告にいく。


 すぐに兵士が戻ってきて、アベルたちを司令官の元に案内した。


 カツ、カツ、カツ――

 ガチャン!


 固い床を歩き奥の部屋に向かうと、重そうな扉を開け司令官の待つ部屋へ入った。アベルを先頭に、サタナキアの順番である。アベルは堂々とアザゼルの正面に立ち、サタナキアは後ろに下がったままだ。


 アザゼルは重厚感のある机を挟み、豪華なイスに座ったままアベルを見据える。


「魔王陛下からの最重要任務とはなんだ! 陛下のご存命に関わる件か?」


 眉間に刻まれた険しいシワを深め、大きく低い声で問いただすアザゼル。

 鋭い眼光にもアベルは怯まない。


「はっ! こちらを」


 ファサッ――

 アベルはサタナキアに被せてあるフードを外した。


「こちらは魔王陛下サタナキア・ルシフェル様でございます」

「なっ!」


 ガタッ!

 驚いたアザゼルがイスから立ち上がった。


「私が、卑劣な罠で陛下を亡き者にせんとした人族を撃滅し、陛下をここアンテノーラまでお連れいたしました」


 アベルが少し仰々しく説明した。


「おお、陛下! 陛下とは露知らずご無礼をいたしました。お許しを」


 アザゼルはサタナキアの前に出て平伏した。


「う、うむ」


 対するサタナキアは、強面こわもての大男にビビりながらも、魔王として部下と接している。


「陛下の御尊顔を拝謁奉り恐悦至極。よく、ご無事でいらっしゃいました。このアザゼル、心配で心配で眠れぬ日々を過ごしておりましたぞ」


 少し大げさなジェスチャーで話すのがアザゼルだ。

 このようなタイプの男は、権威や序列を重んじており、部下にはやたら厳しいが、上官にはペコペコするものである。


「アザゼルよ、これから重要な命令を伝える。ここアンテノーラで人族を迎え撃つ作戦じゃ」

「ははぁ!」


 サタナキアは、事前にアベルが要請した通りに話し始めた。


「ワシは、ここにおるアベル・アスモデウス中佐を、敵国の真っ只中から身を挺し、魔王であるこのワシを救った最大功績を称えることにした。よって、魔族最高位勲章である業魔金翼大綬章ごうまきんよくだいじゅしょうと、四階級特進を贈り、大将の任に就けることを決めたのじゃ! 正式な授与は王都に戻ってからじゃが、現時刻をもって、特例としてアベルの階級を大将とする」

「は、は……?」


 アザゼルは茫然としている。


「よって、アスモデウス大将を、此度のアンテノーラ防衛戦司令官に任ずる。そたなと同格の大将で不満もあるかと思うが、新進気鋭のアスモデウス大将に協力して、共に人族の侵攻を防いで欲しいのじゃ」


 これにはさすがのアザゼルも驚きを隠せない。


「へ、陛下……こ、この者は、まだ士官学校を出たばかりの若輩。いきなり司令官などと……」

「アザゼル閣下、陛下の御裁可に何か不満でも?」


 ここでアベルが口を挟んだ。


「い、いえ、陛下の決定に不満なぞあろうはずもございません」


 サタナキアの前で異議を唱えるわけにもいかず、アザゼルは心の中でアベルに罵詈雑言をぶつけながらも、大人しく従うしかない。

 目の前の若造にイライラしながらも、サタナキアに頭を下げた。


 アベルはアザゼルの心情を読み取っていた。


(ふふっ、さしずめアザゼルは柴田勝家といったところか。羽柴秀吉の策略で嵌められたように、さぞイライラしていることだろう。これぞ、アスモデウス流軍学『清洲会議きよすかいぎ』だ!)


 ※アスモデウス流軍学『清洲会議きよすかいぎ』:織田家の権力を利用した羽柴秀吉の戦略を使った作戦である。

 清洲城で行われた、織田家後継者を決める会議に於いて、秀吉は三歳になる信長の孫『三法師』を抱いて登場した。その巧みな心理戦により、自身が織田家の後継者であるかのような印象を与えたのだ。

 権力者を懐に入れ、他の者に頭を下げさせる話を元にしている。


 アンテノーラに入る前、アベルはサタナキアに、自身の階級を大将まで上げるように頼んでいた。

 お飾りの後継者を利用し、自身の権限を強め、指揮権を手に入れ、アンテノーラでの作戦を計画するのだ。


 アベルは、計画通りとばかりにほくそ笑む。


(帝国の大軍をアンテノーラに駐留する第二軍だけで倒すのは不可能だ)


 寡戦かせんという言葉がある。

 少数の兵で大軍を打ち破るのはロマンがあるが、正面から戦っていてはまず勝ち目は無いだろう。

 もしあるとしたら、奇策を用いて攻めるしかない。


(これは硬直化した思考の魔王軍では不可能だ。俺が直接指揮を執り、人族も魔族も騙すくらいの計略を用いねはならないのだ!)




 アベルたちが執務室を出てから、アザゼルの怒りが爆発した。


「お、おのれ若造が! 陛下をたぶらかし謀ったのか! あんな小僧が俺と同格の大将だと! しかも俺を差し置いて司令官とは! クソッ!」


 ドカンッ!


 アザゼルに蹴り飛ばされたイスが転がった。



 ◆ ◇ ◆



 すぐにアベルは、アンテノーラ周辺の地図を見ながら街の地形やアケロン川の堤防を視察した。この土地に詳しい地元住民と部下の兵士を連れて。


(やはり、ここの地形は特殊だ。思っていた通りだ)


 アベルは士官学校時代、各都市や周辺の地形を学び、来るべき人族との戦いに向け戦略戦術を練っていたのだ。


(まさか、本当にこの戦法を使う時が来るとはな。威力は絶大だが、完全な悪手だな。例え勝ったとしても批判は免れないだろう)


「よし、この堤防の部分の工事を早急に着手してくれ。それと、ありったけの爆薬の用意を。そして、民間人を全て王都方面へ避難させるように」


 アベルがテキパキと指示を出す。

 史上空前絶後の大作戦の為に。


「この街の住民全てを避難させるなど、時間も食料も足りません」


 部下の男が述べた。


「時間も食料も足りないのは承知の上だ。このままここで人族との戦闘に巻き込まれれば、多くの市民が犠牲になってしまう。ありったけの物資を持って全ての住民を移動させる。今すぐにだ」

「は、はっ!」


 次にアベルは、人事局を担当する部下の方を向く。


「そういえば……ここに駐留する第二軍に、ニコラ・ネビロスという少尉が居るはずだが。会えるだろうか?」


 この作戦を行うには人手が足りない。友人であるニコラに協力を仰ぎたいのだ。

 しかし部下の顔が曇る。


「ええ、ネビロス少尉は……上官に逆らい懲罰房行きになっております」

「何だと!」


(ニコラ……何があったんだ……)


「何処の営倉だ。すぐに案内せよ」

「はっ!」


(ニコラ……この国を変えるには、おまえの力が必要なんだ。無事でいてくれ……)



 街全体を罠にするかのようなアベルの戦術。

 やがて訪れる悪魔の如き大逆転。人族だけでなく魔族まで恐れさせたという、アベルの英雄伝説の序奏であった。



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