プロローグ
王都デスザガート最終防衛ラインは陥落しようとしていた。
魔王軍は、魔王サタナキアの相次ぐ失策により、次々と拠点が落とされてしまった。人族の侵略は止まる所を知らず、魔族の村々は蹂躙され悪逆非道の限りを尽くされている。
今まさに、最後の砦が落とされ人族の軍隊がが王都へとなだれ込もうとしているのだ。
「魔王様、もうこれまでです。お逃げください……」
側近の魔族が力なく告げた。
「嫌じゃ! 皆を見捨ててワシだけ逃げるなどできぬ!」
魔王こと、サタナキア・ルシフェルが答える。魔王などと呼ばれているが、非力な普通の少女のようにしか見えない。
魔王軍の相次ぐ失策は、この少女の無茶な命令によるところが大きかった。
悪魔のトップである魔王でありながら、『人間との共存』だの『友愛』だのとふざけたことを言っている内に、次々と人族の侵略を受けこのありさまなのである。
「どうすれば良いのじゃ……ワシが間違っておったのか……」
サタナキアは今にも泣き出しそうな顔で俯く。
頼りない魔王と無能な側近、硬直した前例主義の軍上層部。この国の全てが終わりかけている。
そんな悲劇とも喜劇ともとれるやり取りを見ていた男が、静かだが堂々と口を開いた。
「魔王陛下よ! だから俺の軍学を使うべきだったのだ! 今からでも遅くない、俺を最高司令官に任ぜよ!」
そう声をかけたのは、アベル・アスモデウス。転生者である。
元は佐々木透矢という名前で暮らしていたが、ある理由で転生し上級悪魔となったのだ。
アベルは人間を憎んでいた。人間どもに復讐し、人類滅亡させるのが彼の望みだった。
アベルは思う――
(俺が最高司令官になっていれば、こんな無様に敗走に敗走を重ねるような事態にはなっていなかったはずだ。これが最後のチャンスだ)
前世の知識、歴史の考察、アベルは、その全てを用いて逆転の秘策を考えていた。
「さあ、俺のアスモデウス流軍学を見せてやる。さあ!」
「し、しかし……」
サタナキアは迷っていた。
「まだそんな甘いことを言っているのですか! 敵はもうそこまで来ているのですよ! あなたの失政で、いったいどれだけの同胞が死んだと思っているのです!」
「お、おい、アスモデウス卿、魔王様に失礼ですぞ」
魔王の側近が見苦しい程に狼狽して、アベルを止めようとする。
「あなたは黙っていて下さい! このままここで人族に蹂躙され、悲惨な最期を遂げる気ですかな?」
「う、うう……」
側近は何も言えず引っ込んだ。若造に指図されるのは腹が立っても、対案もなく代わりに責任をとる気もないのだろう。
苦渋に満ちた顔を上げ、サタナキアは重い口を開いた。
「わ、分かった……。そなたを最高司令官である、魔王軍総司令官に任ずる。魔王の有する全ての統帥権をそなたに与える。それにより階級を大元帥とする。全軍を率いて王都を守ってくれ」
「謹んで最高司令官の任、お受けいたします」
アベルは仰々しくサタナキアに平伏した。
「そ、それで、どうするのじゃ?」
「先ず、城に備蓄してある油を集め砦まで運びます。グツグツに熱していれば尚良い! それを城壁に張り付いている敵目掛けてぶっかけるのです! 更に火矢を放ち一網打尽に!」
「そ、そんな酷いことができるかぁ! おぬし悪魔かぁ!」
「もちろん悪魔です! 私は魔王軍総司令官です!」
当たり前のツッコミをしたアベルが、小さく肩をすくめた。
(くそっ、この小娘め! この期に及んでまだ甘っちょろいことを)
「分かりました。それでは作戦変更しましょう。人族にもあまり被害を出さない作戦です」
「おおっ! それは良い。すぐ取り掛かってくれ」
「はい、では魔王様、取り敢えず、このバケツに○○○をですね……」
「はあぁぁぁ! はぁぁ!? な、何を言っておる! 乙女のワシに!」
サタナキアは顔を赤らめて立ち上がった。
「まあ、それは冗談ですが」
「冗談なのか!」
「すぐに準備して欲しい物があります」
「そ、そ、そなたの冗談は分かりづらいんじゃ!」
魔王軍総司令官になったアベルは宣言する。
「さあ、ここからが反撃の時だ! この俺の知識を総動員して、この絶望的な状況を覆してやる! 我ら魔族を差別し、街を焼き住民を大虐殺した人族を一網打尽にしてやる! 俺が作り上げた新型魔導兵器によってな! そして、人類滅亡だ!!」
この物語は、異世界転生して上級悪魔となった主人公が、元世界の知識を使い人類滅亡のその時まで走り続ける、魂の軌跡である――――
お読みいただきありがとうございます。
この物語は、前世で悲惨な最期を遂げた主人公が、上級悪魔の貴族に転生し様々な理不尽やゴミ共を蹴散らし、真の英雄へと上り詰めていくお話になります。
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