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第12話 覚醒と導き

「まず、俺が敵を引きつけるよ」


「えっ……? でも貴方、攻撃が一発でも直撃したら――」


「大丈夫、回避には自信があるから。さっきの魔弾を目をつむって避けられるほどな」


 少女は若干躊躇うように一考すると、突然俺の手を握りしめた。

 一瞬狼狽しそうになったが、自分の右手に宿った蒼い輝きを見て彼女の意向を大体理解する。


「……スキルで防御力が強化されている様だけど、一応強力なバフを掛けておいたわ。それと、ヘイト上げておいたから、殆どの確率で貴方に攻撃が行くはずよ。……HP5だけど、本当に大丈夫?」


 スキルで防御力が強化されているだって……?


 なるほど、恐らくさっきオークを倒した時に取得した2つのスキルの内、どれかが防御力を上昇させてくれているのだろう。

 防御力が1でないのなら、多少ながらも心強いな。ただ、少しでも攻撃が掠った時点でアウトであることには、何の代わりもないんだけどね。


「ああ、全部躱してみせるさ。よし……、いっちょやってやろうぜ!」


 仲間を全て殺され、怒り狂ったデッドオークは全身に不気味なオーラを纏わせると、俺に突進を仕掛けてきた。再び全神経を自分や敵の体の動きに集中させ、オークの動向をギリギリまで見守る。


 真っ直ぐに突進してきている――なら横に躱すだけでも。



「波動攻撃が来るわ! 気を抜かないで!」


「なに……っ!?」



 その驚嘆の言葉を漏らす以前に、俺は即座に方向を転換させて空中高く飛び上がった。

 するとその直後、デッドオークが湾曲刀を横に大きく薙ぎ払い、腕力のみで作り上げられた衝撃波を辺りに飛ばしたのだった。


 それだけじゃない、デッドオークは体勢を低くしたまま空中の俺を睨みつけていたのだった。



 こいつ――まさか攻撃を派生させるつもりじゃ……!?



 どう考えてもその体勢は、待ったなしで攻撃を繰り出す合図だった。

 先程の剣筋からしてもし切り上げを繰り出すとしたら右下から左上か、なら右に避けるべきだな!


 俺は虚空を舞いながら身体を右に反らした。

 刹那――デッドオークが操る刃は予想通り、俺を捕らえようと若干左上振り上げられ、天井に突き刺さった。


「零度凍結――ッ!」


 それを予測していたのか、少女は強力な魔力を纏わせたチャクラムを鋭い角度で投げ飛ばした。

 チャクラムがデッドオークの腕を斬り裂くと同時に、冷気が溢れ出し、湾曲刀ごとオークの腕を凍らせてしまったのだった。


 俺が地面に着地すると、同時に彼女がこくりと頷いた。

 人の気持ちを理解するのは難儀だが、今彼女が何を言いたいかぐらいは俺だって理解できる。


 地面を蹴ると風の如く、俺はデッドオークに接近した。

 そして容赦なくイザラギを茶色い皮膚に食い込ませ、その強靭な肉を力づくで斬り裂いたのだった。


 敵を確殺そうという明確な意志のもとに放たれた攻撃。

 スキル【多段攻撃】により、0.1秒につき約5ダメージ与えられ始め、デッドオークのHPがみるみると減少し始める。


 デッドオークは苦痛、あるいは怒りからか叫び声を上げた。

 このまま斬り裂き続ければ、あっという間にデッドオークのHPを削り切り、奴は絶命するだろう。



 だがしかし、デッドオークは諦めなかった。



 天井にへばりついたはずの凍りついた腕を、持ち前の豪腕で取り外すと、左手で神経まで凍った右腕を掴んだまま、猛然と湾曲刀ごと地面に振り落としたのだった。

 刹那――ゴブリンロードの渾身の一撃と大差ないほどの衝撃が走り、地面が大きく割れた。


 俺は何とか衝撃の範囲外へと逃れたため、HPを削られることはなかった。


 しかし、回避技術の有無も分からない少女は、見事にその意表を突いた衝撃に足を取られてしまった。



「ひゃっ!?」



 地震で転んで、尻もちをついてしまった少女。

 そして運悪くデッドオークの視界から俺が消えてしまい、彼女だけとなった途端――


 デッドオークは少女を睨みつけ、湾曲刀を構えると、怒りの突進を繰り出したのだった。



 しまった……ッ!



 今までパーティーを組んだことがなかったせいか、俺は独りで回避することに集中し、後衛の存在を忘れ去っていた。

 幾らヘイトが高かろうと、視界からいなくなってしまった標的と視界にいる標的とでは、優先順位は明らかだ。

 誤算だった、自分ばかりに気を取られすぎて、周りが全く見えていなかった。



 クソッ……、敵を引きつけるって言ったのは――俺じゃねぇかよ!



 その瞬間、俺の頭の中にとある文字列が流れ込んできた。

 習ったことも、見たことすらもない魔法文字の羅列――それは俺も知らない新たな魔法だった。


「スプリント――」


 地面に手を付けて、何も出来ず、突進を食らいそうになっている少女の姿を見る。


「い、いや…………」


 恐怖心に駆り立てられていた、少女に冷静な判断を委ねることはできない。どんなに運が良くても、あの状態からは躱しようがない。


 間に合うか? いや、どんな手を使ってでも間に合わせないと駄目だ。

 今の俺の身体力の高さなら、こんな距離ぐらいどうってことないはずだ!


「――ダッシュッ!」


 ありったけの魔力を両脚にのせ、俺は全速力で走り始めた。

 殆ど何も見えない暗闇の中、感覚だけを頼りに限界まで加速し、突進中のデッドオークを追い抜かすと、少女を抱きかかえ、虚空へと飛んだ。


 疾風……、いや音にでもなった気分だった。

 全身の感覚が研ぎ澄まされ、辺りの景色は一瞬ぐにゃりと曲がり、ありとあらゆる知覚速度が急激に速まっていた。


 刹那――デッドオークの渾身の斬撃が目に見えぬ波動を生み出し、炸裂する。

 衝撃波の一部が俺の脚にぶつかり、久しぶりに満タンだったHPが少し削れた。


「グッ……」


 感覚としては、2ダメージくらいか?

 防御力が強化されていて助かったというべきか……、それにしても衝撃のみでダメージを食らったところを見るに、やはり躱して正解だった。


「あっ……、あれ?」


「ふっ、何をとぼけているんだ? さっさと続きやるぞ」


「う、うんっ!」


 少女を地面に下ろすと、俺たちは再び各々の武器を構えてデッドオークと対峙した。

 今度からは敵の視界から外れることなく、完璧に避けきってみせる。それが敵を引きつけるドッジタンクとしての使命だ……!


「次は炎属性の波状攻撃よ!」


「了解だ……ッ!」


 俺はひたすら敵の注目をひきつけ、回避することだけに徹する。


 デッドオークの攻撃方法は多彩だった。

 怒りのオーラを纏い突進してくる攻撃を始め、魔力が全くない為に僅かな5回しか打てないであろう炎属性の剣術をここぞという所で巧みに扱い、隙を見せると剣筋が全くもって読めない斬撃を繰り出す。


 しかし、俺はどんな攻撃がこようと躱し続けた。

 ある時は空中を舞い、ある時は地面を転がり、ある時は瓦礫を盾にして、デッドオークの攻撃全てを躱し続けた。



「次、突進が来るわよ!」


「了解ッ!」



 それにしても、この少女が扱う鑑定魔法は尋常ではないな。俺なんか、HPを鑑定するだけでもやっとだというのに……。


 彼女の鑑定は、もはやステータスを読み取るどうこうの話ではない。どのタイミングでどのスキルが発動しそうかまで見抜き、相手の動作を正確に読んでいるのだ。


 その正確さは百発百中だった。

 全ての動作を完全に予測しているわけではないだろうが、少なくとも彼女が”来る”と予言した動作に1つも間違いはなかった。


 相手の攻撃方法が分かるだけでも、回避の確率は倍増する。

 後は俺が相手の細かな動きを正確に把握して、完璧に避けるだけでいい。



 ――負ける気がしなかった。



「もう一回突進が来るわ、そのまま壁際に誘い込んで!」


「分かった――スプリントダッシュッ!」


 デッドオークの目の前まで距離を詰めると、俺は敢えて仁王立ちをする。そして、酷く憤慨し、顔が赤色に染まった巨大な豚人の姿を下からジッと見上げた。


 そんな俺の態度が更に癪に障ったのか、直ぐにデッドオークは突進の準備をした。

 ゆっくりと背後を確認しつつ後退する俺を目掛け、地を勢いよく蹴り、湾曲刀を握りしめて猛然と迫ってくる。


 ギリギリ――衝突寸前まで迫ってきたデッドオーク。しかし、俺はしたり顔でそれをひらりと躱した。

 こうなることぐらい分かっていただろうに……、頭がいいとは言え、そこの辺りの読みがまだ甘いようだ。


 デッドオークは方向転換をしようと急ブレーキを掛ける、しかし残念ながらもう遅い。

 少女の魔法で、既に氷漬けになった岩場の上に足を踏み入れたデッドオークは、情けなく転ぶとそのまま滑っていき、壁に激突した。



 そして、その隙が命取りとなった。



 俺は高く飛び上がり、上空から全体重をのせてイザラギを振り下ろした。

 ミシリとオークの骨が軋む音が鳴り、硬い脂肪で出来上がった腹は刀の強撃によって、いともたやすく斬り裂かれた。


 喉の奥から断末魔の叫びを響かせたデッドオークは、遂に湾曲刀を手放し動かなくなる。



「……はぁ、はぁ。やった」


「ふぅ……、勝ったのね。私たち……」


「あぁ、俺たちの勝利だ!」



 俺と少女は暗闇の中、互いに笑ってみせると、ハイタッチを交わしたのだった。

・スキル【多段攻撃】について


2018/12/25に設定を改変し、以下のように簡略化させました。

―――――――――――

【多段攻撃】

ダメージを与えることのできる攻撃の最中、あらゆる攻撃行動の効果を0.1秒毎に重複させる。

ただし、重複させた効果一回で与えられる最大のダメージ量は7までとなる。

―――――――――――


ここでの攻撃の最中とは、例えば剣で敵を斬り裂いている最中、また魔法が敵に接触している最中のことを表します。要するに敵を斬っている、拳で敵を殴っている時間が長ければ長いほど、ダメージ量は増えます。


例)攻撃力(または魔力)14のスキル使用者が1秒間攻撃した場合(防御無視とする)

最初の攻撃効果で14ダメージ。その後、その攻撃の効果が10回重複する。しかし、攻撃力が14の為、最大のダメージ量を越してしまい、一回の重複効果が与えるダメージは7。よって7×10により、重複効果によるダメージは70ダメージ。合計84ダメージ。


(cf.剣を突き刺した際、剣を突き刺すまでは攻撃中と見なされますが、剣が突き刺さった状態は外力が働いていないので、攻撃中とは判定されません。また水飛沫を掛ける等、そもそも攻撃と見なされない物ではダメージは入りません)


また魔法詠唱の重複効果は流石に物理と魔法との均衡を完全に壊してしまっているので完全に撤廃させていただきました。再三申し訳ないです。


・身体力、精神力について

上記の改定と同時に『敏捷性』を『身体力』と変更し、新たに『精神力』という項目を追加しました。

『身体力』……身体能力の良し悪しに関する値。初期値で元々の人間と同等。

『精神力』……精神の強さに関する値。混乱や幻覚などの状態異常の効果を受けにくくなる。


・SP (ステータスポイント) 仕様

自由ステータス値をSP表記に変更したいと思います


設定は順次反映させていただきますので、よろしくおねがいします。

勝手ながらの変更、まことに申し訳ないです。

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