ルキリヤは涙目です
ここはクテイが兄を探して立ち寄った町。そしてルキリヤと出会った町である。
そしてその町のなかでも特に洒落た空間である高級服屋。
店先のショーケースでは人型ゴーレムがお洒落な服を着て、緩慢な動きでポーズをとっている。簡単な動きしか出来ないとはいえ、プログラムされた行動をとるだけとはいえ、中々のものだ。
服屋の中を見てみればこれまた洒落た服が完璧な配置で並べられている。
そんな町のなかでも異質な空間。まさに異世界。
その店のなかで、服を買いにきたルキリヤは………
涙目だった。
「うぅ~、こんなところ来たのは初めてですよぉ~。
無茶言ってでもクテイさんについてきて貰うんだった……」
元々田舎育ちのルキリヤは大きな町に来るのは今回が初めてであった。更に言うと、洒落た服屋なんて尚更だ。
どうすればよいのか、また、自分がこんなところにいてよいのか、分からなくなっていた。
そんなわけで、涙目で立ち尽くすのみとなっていた。
三分前には意気揚々と店に入っていたのに。
「だから安いやつで良いって言ったのに~
…………今からでもお店変える?」
本気で悩み始めた。
その時、
「いらっしゃいませ」
「キャウン!」
背後から聞こえてきた声にルキリヤはビクゥっとなる。
例のごとく、尻尾と耳は立っている。
「! 驚かせてしまい申し訳ありません。お嬢様」
ルキリヤが恐る恐る振り替えると、そこにはスーツを身に纏った麗人が。
異世界とはいえ、かなりの出来のスーツだ。
実はこのスーツは地球には無い特別な素材でできていたりする。
「なにやらお困りのようでしたのでお声をかけさせて頂きました」
どうやらこの店の店員らしい。
ルキリヤはこの店員の纏う雰囲気に軽く圧倒されている。
おかげでか、涙はひっこんでいる。
ここから挽回出来るだろうか?
「ひゃ、ひゃい」
駄目だった。
顔が真っ赤になってしまった。
「はい」
麗人は微笑む。決して馬鹿にしている笑いでは無い。
見る者を安心させる笑みだ。
「え、えっと、服を買いに来ました……」
落ち着いたのか、若干の余裕ができたらしく、なんとか答える。
まあ、服屋に来ているのだから服を買いに来たのは当然と言えば当然なのだが。
ちなみに言うと、ルキリヤは人見知りではない。むしろコミュニケーション能力は高い方だ。この空気が馴れていないだけで。
「はい。どのような服をお探しでしょうか」
麗人の店員はゆっくりと尋ねる。
「えと、とある事情で服を全部無くしてしまって、旅に着る軽装から、パシャマまで、全般を」
調子が出てきたらしいルキリヤは答える。
「なんと。左様ですか。それはお困りでしょう。もし宜しければ私めが選んで差し上げましょうか?」
麗人は軽く驚きを露にすると、提案する。
「いいのですか?」
ルキリヤは天の助けと言わんばかりに食いつく。
「ええ。是非に。それに、貴女は美しいのでコーディネートのし甲斐がありますしね」
またもや微笑む。
「なら、お願いします!」
***************
「いや~、凄くいい人でしたねー。
とても良い服を選んでもらって、更に割引までしてもらっちゃって」
ルキリヤはこの上なく上機嫌だ。
「女性でしたがとても格好いい人でした」
鼻歌でも歌い出しそうである。
「今着ている服だってかなり動きやすいですし」
早速買ったばかりの服を着ている。
活発なルキリヤにとても似合っている。センスの感じられる装いだ。しかも、このまま旅に出ても問題なさそうでさえある。
「…………ん?」
違和感を感じ、ふとズボンのポケットに手を突っ込んだルキリヤ。
手に何か触れた。
「なんでしょう……?」
ルキリヤはポケットから取りだし、見てみる。
「手紙……?」
どうやらそれは手紙のようだ。
折り畳まれており、表には『ルキリヤさんへ』と書かれている。
「いつの間に入れられたのでしょうか?」
訝しげになりながらも手紙を開き読んでみる。
「……!」
思わず驚きを禁じ得なかった。
手紙の冒頭には、こう書かれていたのだ。
つまるところ、差出人は、“クテイの兄だ”と。
「こ、これは……」
ルキリヤはキョロキョロと周りを見渡す。
それらしき人物は見当たらない。
唾を飲み込み、手紙をよく読んでみる。
手紙の全文は以下の通りだ。
『はじめまして。いつも妹がお世話しています。兄です。
此度はどうしても一言伝えたく、手紙を書きました。
直接会って話せない非礼を詫びさせて下さい。
妹の勘は相変わらず冴え渡り、兄の居場所を当ててしまいました。
逃げる方も追う方のことを知らねば逃げれません。なので少しはあの子の情報も知っております。
勿論、あなたのことも。
妹に群がる害虫を退治するのも兄の役目。
失礼ながら、兄はあなたを観察していました。
その結果……
妹を宜しくお願いします。そう言うに足る人物だと思いました。
あの子の周りにはいずれ人が集まるでしょう。今はあなただけですが。その全てに口出しするほど常識が無いわけではありません。なので兄に代わり、あの子のことを宜しくお願いします。
それと、あなたがこの手紙を読む頃には兄はもうその町には居ないでしょう。また逃げる旅に出ます。
繰り返しになりますが、どうか妹のことを宜しくお願いします。
PS.この手紙は五秒後にイイカンジに爆発します』
「お兄さん……」
手紙を読み終わったルキリヤ。
そっと手紙を閉じる。
「妹のことをそこまで大切に思ってたんですね……」
ルキリヤは言葉の一つ一つを噛み締める。
そして、
「それにしても過保護過ぎるでしょうが!!!!」
吠えた。
「なんですか! 『妹がお世話しています』って!
普通はお世話になってますでしょうが!!
それに、妹による害虫って!! 人間ですよ!?」
そしてツッコむ。
「まだまだ言いたいことはありますよ! ええありますとも!
というか、これをポケットに入れたってことは私の会っている人ですよね! 今からでも探しに……」
ボンッ!
「わふぅ!?」
手紙が小爆発を起こした。
煙が凄い。
町の人たちも何事かと足を止める。
まあ、一人で騒ぎだした時点で怪しい目で見られていたが。
煙が晴れるとそこには……
イイカンジのアフロヘアーのルキリヤが。
顔に煤がついているものの、怪我はない。
たとえルキリヤがケホッと言い、口からもくもくと煙を吐き出していても怪我はないったらないのだ。
「やってくれましたね……」
涙目ルキリヤ再誕。アフロver。
手紙の燃えかすの中には『そのイイカンジはそのうち勝手に治るよ(笑)』
の文字が。
町人の笑いから逃げるようにルキリヤは走り去った。
***************
「おっ? 手紙を読んだっぽいな。俺の仕掛けが作動する反応がある。
ははは。いや~、趣味でもない女装をした甲斐があったってもんだ。実際にこの目で見たかったなー。
にしても、いい子だったな。ルキリヤさん。また会う日が楽しみだよ。
…………もれなく妹もついてくるのだろうけど。
スマン妹よ。兄はまだ会えん」
誰かが何処かで独り言を言った。




