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16.メガネとK介(3)

K介がヒーローとして登場する完結済み作品があります。

『翡翠の泉を目指して』です。

前回のメガネと過ごした後のお話を番外編で書き足しています。

「わざわざ東京から来てもらってすいません」


 俺が言うと、慧介さんは「乗りかかった船だからな」と言った。

 あれから数日しか経っていなかったが、俺は慧介さんに相談をしていた。すぐに返信があり、ちょうど休みだからそっちへ行くと言われた。

 今は駅前のファミレスにいる。


「それで、ーー心霊スポットにいった奴らが次々消えてるっていうのは本当か?」


 慧介さんはおしゃれな私服姿だった。東京の人という感じだ。


「嘘じゃないっす。後でわかったことですけど、まずは中学の同級生が三人消えてたって。俺のところにも来たのがその後。でも慧介さんのお陰で乗り切れたでしょ? 今度は唯一の女子だった美紗希がいなくなって……」


「いたずらの線はないのか?」


「慧介さんも見たでしょ? あの化け物に連れて行かれたに決まってる」


 霊感のない俺が、生まれて初めて目にした怪異だった。

 あのとうもろこし色の髪の女を思い出すと、吐き気が込み上げてくる。


「ーーあ、でも、一つだけ変なことがあるんです。R……璃珠も消えてて。連絡がつかないし、家に行ってみても反応がないんですよ。璃珠は心霊スポットに行ってないはずなのに」

「好きな子が消えたっていうのに平然としてるんだな」


 慧介さんが言い、俺はばつが悪くなって俯いた。


「まあいいや。ただ、俺にできることは正直いってないと思うぞ。今のところ起こってるのは、お前とAってやつだな?」


 俺はうなずく。


「俺は、ーーどうかはわからないけど、たぶん大丈夫だと思う。でも、A、篤司は本当に様子がおかしくて心配で。ーーいなくなった美紗希は篤司の彼女だから、もちろん焦ってるのはわかるんですけどね。なぜだか、執拗に璃珠を探してるんです。SNSにも璃珠の顔写真や個人情報を載せて、それが拡散されてしまって……。このままだとヤバいと思う」

「ふうん」


 慧介さんが、なにか考え込んでいた。


「篤司にも、霊が見えるのかもしれないな」

「え? 篤司が? まさか。オカルト好きなのは美紗希っすよ?」

「それは見えないからだろう。この世界が見えているなら、好き好んであんなものに興味を示さないと思うがな」


 慧介さんの見える世界は、いったいどんなものなのだろう。

 興味が湧いたが、考えただけでも吐きそうになってきて、頭の中から追い出した。

 そんな俺の様子を見て、慧介さんが肩をすくめる。


「お前は視えてないけど、感覚が鋭いんだろうな。第六感のようなもので嗅ぎ取っていて、それが吐き気につながってるんだよ、たぶん」

「えー、それじゃあ俺、霊発見機みたいなもんじゃないっすか。いやだなあ」


 俺が言うと、慧介さんは一瞬きょとんとした顔をして、それからく、く、と笑いを漏らした。

 俺はぷりぷりしながらドリンクバーに向かい、メロンソーダをたっぷり入れた。それと、慧介さんにはすべての飲み物を全部混ぜた特製ドリンクを用意した。


「それで、さっきの続きな」


 慧介さんが切り出した。


「篤司はきっと、璃珠っていう子を利用してきたんだ」

「利用?」

「あぁ。その子には、恐らく、普通では考えられないほど強力ななにかが憑いていて、一緒にいると悪霊が寄ってこられないみたいなことではないだろうか」


 それは、すとんと落ちる考えだった。


「心当たりがあるんじゃないか?」


 慧介さんの問いに、俺は頷く。


「うわ、なんか吐き気がヤバいなって思うとき、いつも、璃珠がこてんと寝てたんですよ。それで解散になる」

「推測でしかないが、その子の身体を出入りできる存在だったのだろうな。そもそもおかしいと思わないか?突然眠り込んでしまう病気がある子を、そんなふうに連れ回すなんて」


 俺は納得して頷いた。


「--だから、璃珠がいないとき、あんなに必死で別日にしようと言ってたのか」

「ああ。それなら辻褄が合うだろう?」




 俺たちは、篤司に連絡をとった。反応はなかった。

 彼の暮らすアパートに行ってみたが、灯りもついていなければ、物音もない。


「あ、慧介さん!」


 慧介さんが、ドアノブを回すと、がちゃりと開いた。鍵がかかっていなかった。


「慧介さん、やばいっすよ、それじゃあ泥棒だ」

「おい、--変だぞ」


 慧介さんが言った。

 篤司の部屋は真っ暗で、誰もいない。荒らされたか暴れたかしたかのように散らかっていた。窓が細く開いていて、そこから夜風が吹き込み、カーテンをはたはたと揺らしている。

 床に散乱した本やプリントの上に、月光が水溜まりのように落ちていて、その中にはスマホがあった。


「遅かったか......」


 慧介さんのつぶやきが、夜に沈んでいった。


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