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252話 嫌な事を忘れるために

「っ! やめなさい、ケリー!」


 俺の襟に掴みかかってくるケリー夫人。その光景を見ていた父上は遅れてケリー夫人を止めようと近づき、それに少し遅れてクルトも動く。姉上とミアは、夫人の声に驚いてやって来た。


「どうして止めようとするのよ!? あの人は私の大切な息子であるバルトを死に追いやった張本人よ! それなのに、あなたはどうして平然としていられるのよ!」


「その事については話し合ったはずだ! あれはレディウスは悪く無いと! 罪を犯したバルト、そしてそれを止められなかった私たちが悪いのだと!」


「だけど! だけどぉ!!」


 俺から無理矢理引き離されて父上に説得されたケリー夫人は、その場で泣き崩れてしまった。父上とミアはケリー夫人を抱えて寝室へと連れて行くようだ。


「……大丈夫か、兄貴?」


 その後ろ姿を眺めていた俺に、暗い顔をしながら尋ねてくるクルト。姉上も不安そうに見てくる。


「ん? ああ、俺は大丈夫だよ。あの時の事は少し考えたが、夫人には悪いが俺は正しかったと思っているし。クルトも死にかけて、ロナも危うく酷い目に遭うところだった。間違った事をしたとは今でも思っていないからな。姉上には申し訳ないが」


「ううん。バルトが悪いのは誰が見てもわかっているわ。勿論、お母様も。ただ、お母様はまだ受け入れられないのよ。自分の息子だからね。私もエミリーが出来たからわかるわ」


 そう言い、ケリー夫人が去って行った方を見る姉上。……確かにそうだな。俺もヘレスティアやセシルが何か問題を起こした時、今と同じ事が出来るか? と、聞かれたら、直ぐには答えられない。まあ、そんな問題を起こさせないようにするのが先なのだが。


「……とりあえず今日は帰ります。迷惑かけてすみません、姉上」


「……こっちもごめんなさいね。せっかく来てくれたのに。でも、ありがとう。エミリーも喜んでいたわ」


 そう言い近付いてくる姉上を俺は抱き締める。姉上は少し驚いた様子だったが、おずおずと抱きしめ返してくれた。少しささぐれた心が癒される。


 それから、眠っているエミリーとアルトの寝顔を覗いてから、俺は姉上たちの家を後にした。


 もう夕日は沈み切り、月が顔を出した時間帯。普通のお店などからは光が消え、酒場などの夜の店からは喧騒が聞こえてくる。


 ここまで明るいのは流石王都といったところだろう。男爵だった頃の領地では、俺が引っ越す前にようやく夜の店も増えてきて、今の伯爵領は、冒険者ギルドの近くに多かったな。まあ、どちらも通う事はあまり無かったが。


 ……よくよく考えればそういう遊びもした事がないな、俺。まあ、修行終えて直ぐにはアレスと共になったし、アルバスト王国の王都についてからは、ロナやクルトを助けてそれからずっと一緒だった。


 学園に入ってからは、ヴィクトリアたちと共におり、対抗戦から帰ってくれば、ヘレネーが来てくれた。そして、結婚し、戦争に行き、子供が生まれ、今となる。


 家族に恵まれているおかげで今まで1人なる事は無かったため、そういう所は気になる事は無かったが、いざ1人になって考えてみると、少し興味が出て来た。


 流石に娼館は妻たちがいるため行かないが、酒場ぐらいなら許してくれるだろう。そうと決まれば、行く酒場を探すか。さっきの事も酒を飲んで忘れるとしよう。


 良さそうな店を探すために、歓楽街をぶらぶらと歩く。死竜の問題が解決したおかげか、数日前より活気があるな。


 俺の様にぶらぶらと歩く男たちを、かなり際どい服を着た女性たちが寄って客引きを行なっている。この辺りはどの店も程よく客が入っている様だ。どの辺が良いかな?


 しばらく見歩いていると、良さそうな店を見つけた。治安の悪い場所にはなく、そこそこな外観の店。治安が悪いと黒髪だから絡まれたりして、治安が良くて高い所だと、そもそも入れさせてくれなかったりするからな。


 見つけた店は中々賑やかで、結構広々としている。店的には酒場というよりかは、女性と同じ席に座って話しながら酒を飲む様な所だ。女性たちは綺麗でありながら際どいドレスを着て男性の相手をし、男性はその姿を見て鼻の下を伸ばしている。


 ……んー、ちょっと店を間違えたか。俺的にはもう少し酒場の様な雰囲気の店にしようと思っていたのだが。


「お客様、当店にどのようなごようで?」


 その光景を眺めていると、金髪の男の従業員が側に立っていた。俺を不審そうに見てくる。まあ、見るからにそこそこの値段はしそうな店だ。黒髪の俺が来て何しに来たんだって感じなのだろう。


 うーん、どうしようか。ヴィクトリアたち妻たちがいるし、さっきまで姉上たちに会っていたから、その後にこのような店に来るのはどうかと思うのだが、このまま帰るのもなんだか負けたような気がする。


 ……酒を軽く飲めたら良いから少しぐらい良いかな? そんな長居しなければ良いだろう、多分。


「勿論客として来た。もしかして黒髪だからちゃんと払えるか不審に思っているのなら心配しなくて良い。この2つを見て貰えばわかるはずだ」


 俺は胸元についてある王国への国賓としてのバッチと、懐に入れているお金を軽く見せる。国賓のバッチによって俺の身元が簡単ではあるが確認出来、大金貨と金貨がそこそこ入った袋を見せたため、従業員は安心して俺を案内する。


 案内されたのはそこそこ奥の席で、少し周りの席に比べて大きめで豪華だった。これって場所代も取られるやつだよな。金貨見せたのが悪かったのか、上客と思われたらしい。


 案内された席に座って待っていると、何故か2人の女性がやって来た。何故? ここは男性と女性が1対1で話したり酒を飲んだりするところでは無いのか?


「初めまして。私メディナと申します」


 初めに挨拶して来たのは、茶色の長髪を右側から前に流して来て、紫色の胸元が開いてスリットのあるセクシーなドレスを着た女性だった。


「は、初めまして、私クーネリアあぁぁあああっ!?」


 そして、次に挨拶して来たのは、何処かで見た事のある女性だった。向こうも俺を見て驚いている……あっ、化粧していて直ぐにはわからなかったが、昼間に行った烈炎流の道場にいた女性で、姉上に迫っていたクーネだった。


 道場の時と同じように金髪を頭の上に団子にしてドレスを着ているが、どうしてここにいるのだろうか? ……俺的には少しお酒を飲みに来ただけなのだが。

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