219話 条件
「どいつもこいつも、無乳、無乳って! 全員ぶっ刺してやるんだからぁっ!!!!」
怒りに涙目になるミレイヤは、ミレイヤの胸を弄る村人たちに矢を向けて追いかけ回していた。村人たちもきゃあきゃあと楽しそうに逃げているから、この光景も日常茶飯事なのだろう。
「全く、あの子たちは。取り敢えず、私の家に来るのじゃ。私に用があるんだろう?」
そう言いこの村の中で1番大きな家へと入って行くシルファさん俺もその後について行く。部屋の中は色々な花が育てられており、とてもいい香りがする。
「そこら辺に適当に座るのじゃ。私は飲み物でもいれてこよう」
シルファさんはそれだけ言うと奥へ行ってしまった。取り残された俺はしばらく家の中にある花を見て回っていると
「もうっ、あいつら次言ってきたら許さないんだから!」
ドシドシと家の中に入って来るミレイヤ。そうか、シルファさんはミレイヤのお婆さんだから、ミレイヤの家でもあるのか。でも、ミレイヤの両親はいないのかな? あまり詮索する気はないけど、少し気になってしまった。
ただ、ミレイヤは俺を見るなりキッと睨んできて、今だに手に持つ弓矢を向けてきた。いやいや、俺は言っていないぞ?
「これ、ミレイヤ。家の中で矢を構えるんじゃないよ」
そこに丁度いいタイミングでシルファさんが戻って来てくれた。手にはお盆を持ち、飲み物をいれて。ミレイヤが戻ってきたのにも気が付いたのかコップは3つだった。
ミレイヤはシルファさんの言葉に大人しく従って椅子に座る。ふぅ、助かった。俺も椅子に座って飲み物を頂く。おっ、上手い。それに甘いぞ、これ。
「どうやら、お気に召したようだねぇ。それは蜂花というこの森の中に咲く花で作った飲み物で、この森の魔獣、ロイヤルビーが唯一蜜を貯める花なのさ。様々な花の蜜を集めて、世界に1本だけしかない花が出来る。それが蜂花さ。その花を取ろうとしたらロイヤルビーを倒さなきゃいけないが、まあ、私にかかれば余裕さね」
へぇ〜、そんな魔獣がいるんだな。やっぱり大平原の森は凄いな。俺の知らない事が沢山ある。
「それで、ミレイヤ。この男、レディウスと言ったかねぇ。彼を連れてきたのは?」
「あっ、そうね、まずは出会いについて話すわ」
蜂花の飲み物に集中していたミレイヤは、シルファさんの言葉で我に帰ってからは、俺との出会いを話し始める。
まあ、出会い方は最悪だったが、その後ここに来るまではそこそこ連携もとれて中々上手くいったな。
「へぇ、あの大食いに食われて生きていたとはねぇ。やるじゃないか」
「まあ、あれは運が良かったのもありますが。それで、俺はシルファさんに聞きたい事があってこの村まで来たんです」
「ここまで話を聞けば大体何が言いたいかわかる。アルバスト王国に帰りたいのだろ?」
俺はシルファさんの言葉に頷く。俺がここに来た1番の目的だ。他にも少しやりたい事が出来たが、なにより心配しているだろうヴィクトリアたちに早く会いたい。
だから、せめてアルバスト王国のある方角でも教えてもらえればと思ったが、シルファさんの回答はとんでもないものだった。
「残念だが、ここから歩いてアルバスト王国に戻るのは無理だねぇ。ここは大平原の中でも奥地の手前だ。ここからアルバスト王国まで歩いて行こうと思ったら、半年はかかる。その間、襲いかかる魔獣たちの相手が出来るのかい?」
半年ってまじかよ。それに襲いかかって来る魔獣の相手をしながらだ。かなり厳しいだろう。しかも、軍隊などなら万が一にもあるかもしれないが、俺1人。あまりに厳しすぎる。くそ、グラトニーワームめ。無駄に掘り進めやがって。
しかし、どうしたものか。このままだと、一度も帰れないまま死んでしまう。何か方法は無いのか?
「お婆様の転移の魔法じゃあ駄目なの?」
そうか! 紫髪のシルファさんは光魔法も使えるのか? 話を聞いていくと使えるようだが、ここで新たな問題が出て来た。それは、アルバスト王国の場所を知らない事だ。
転移の魔法は頭の中に行き先を思い浮かべなければ、発動しないのだ。ただ、大平原の入り口付近は一度行った事があるらしいので、そこまでなら送ってくれるという。
良し! ついに帰れる! そう思ったが、何事もそう上手くは行かなかった。シルファさんは、この村の村長の役割として、この村を囲う結界を維持している1人らしい。
この結界は1人でも抜けると、綻びが出来て外からも見えてしまうという。見つかれば魔獣が襲って来るのに、態々赤の他人である俺のために、そんな危険を犯せないと言う。
やるのなら、この結界、村の周りの魔獣を間引いてからになるそうだ。ここまで話されたら、シルファさんから一つ提案されたのも内容がわかる。
「お前が、私に転移させて欲しかったら、やる事はひとつだけだよ。この村の周りの危険を排除する事だ」
……仕方ないな。俺1人のためにこの村を危険に晒すわけにはいかない。俺の力が役に立つと言うのなら、喜んでやらせて貰う。
シルファさんはこの内容を村の住民たちに話すと出て行った。やるとしても準備期間が必要だから数日後だとは言っていたが。それまでは、少し村の外を見て回って感覚だけでも掴むか。




