196話 帰還
「……やっと帰って来られたな」
俺は久し振りに見る領地に1人感動していた。半年振りの領地も大きく変わっていないのもあってか余計に懐かしくなる。
前触れを出していたせいか住民たちが門の入り口へと集まっていた。俺たちの姿を見て歓声を上げる住民たち。そして門の前には
「おかえりなさいませ! レディウス様!」
満面の笑みで出迎えてくれたロナ。その隣にはミネルバも笑みを浮かべて立っていた。俺もブランカを2人の下まで進めて降りる。
「ただいま、ロナ、ミネルバ。2人とも変わりは……ロナは髪の毛を伸ばしたのか? それに、そのドレスは……」
「え、えへへ、訓練ばかりじゃなくて、女の子は偶にはオシャレもしなきゃって、ヴィクトリアさんが……」
恥ずかしそうに微笑むロナ。やっぱり女の子って半年近く出会っていないだけでかなり変わるな。とても綺麗になっている。
ロナも肩で揃えていた髪の毛も腰まではいかないが、肩甲骨辺りまで伸びていて、それだけで印象が変わる。ドレスも髪に合わせてか黒色のドレスを着ていてとても似合っている。
「とても似合っているよ、ロナ。もう大人の女性だな」
「あ、有難うございましゅ!」
恥ずかしさのあまりか噛むロナ。それに気が付いて恥ずかしそうに頬を赤く染めている。ずっと見ていても飽きないな。
「主人殿、ここでの立ち話もそこそこにして、屋敷へ向かいましょう。お2人がお待ちしております」
「あっ、そうですよ! お2人が今か今かとお待ちしております。ヘレネーさんに至っては、身重なのに我慢出来ずに剣を振ろうとしていたんですから!」
……何をやっているんだよ、ヘレネーは。俺は苦笑いしながらも門をくぐる。うん、やっぱり変わっていないな。兵士たちはグリムドに任せて町の中を歩く。やっぱり知らない人が増えているな。この町に住む人が増えていっている証拠だ。クリスチャンも上手くやってくれたようだ。
しばらく歩いていると、ようやく屋敷が見えてきた。そして屋敷の前には人影もあった。2人の姿を見た俺は思わず走り出してしまう。半年振りに彼女たちに会えるのだ。これくらい許してほしい。
俺は2人の前に立ち止まって、愛しの彼女たちを見る。2人ともやっぱりと言うか半年前に比べてお腹が膨らんでいた。いつもの動き易い服装やドレスではなく、体を締め付けないゆったりとした物を着ている。
2人も俺の姿を見て嬉しそうに微笑んでくれる。そして
「おかえりなさいませ、レディウス。無事に帰って来られて……」
「おかえりなさい、レディウス!」
ヴィクトリアが何かを言おうとしたのを、ヘレネーが遮って俺に抱き付いてきた。俺が優しく抱きとめるとヘレネーは俺の胸元に頭をぐりぐりと押し付けてくる。そして、それを見たヴィクトリアが
「ああっー! 何を抜け駆けしているのですか! まずは挨拶をしてからって前もって話したじゃ無いですか!」
「ふーんだ! そんな挨拶しなくたっていいでしょ? ね、レディウスもそう思いでしょ?」
「レディウス、ヘレネーの言葉に騙されては駄目ですよ。貴族には様々な礼儀があるのです。戦場から帰って来た旦那様には必ず労いの言葉を……」
「だーかーら、別に言葉じゃなくてもいいでしょ? ほら、こうやって」
ヘレネーはそう言いながら俺の頰へとチュッとキスをして来た。その光景を口をパクパクとさせながら見ていたヴィクトリアは、ヘレネーとは反対側の頬をチュッとして来た。
ヘレネーはそれをニヤニヤと見ており、ヴィクトリアは顔を赤らめさせながらそっぽを向く。はぁ……可愛いなぁ、もう!
「ひゃっ!?」
「きゃっ!?」
俺は半年振りの2人の感触を味わうために力強く抱きしめる。変態なんて言わせないぞ。好きな人と半年も離れたらみんなこうなるはずだ。
俺はある程度抱き締めて満足したので離れる。2人はどこか名残惜しそうな表情を浮かべているが、まだ2人に伝えていない言葉があった。
「ヘレネー、ヴィクトリア、ただいま!」
「「お帰りなさい!」」
……やっと帰って来られた。そう感じたのが、この時が1番実感した時だった。




