163話 VSロックドラゴン(2)
「ガァラァアアアア!」
怒りの咆哮を上げて、俺に向かって走ってくるロックドラゴン。片腕を振り上げて、迫るその姿は、普通の人では畏怖して動けなくなるほどの威圧感を放ってくる。
俺はこれぐらいは慣れているためそんな事は無いが。まだ、師匠の方が怖い。師匠に言ったら怒られるだろうけど。
俺はロックドラゴンの振り下ろす左腕を、2剣で横に逸らす。ぐくっ! 勢いを逸らすだけで、腕にはかなりの負担だ。やっぱりとんでもない力をしてやがる。
攻撃を逸らされたロックドラゴンは、そのままその場で横回転をする。その動きは既に次の攻撃へと移っていた。
ロックドラゴンは回転の力を利用して、自身の尻尾を振り回してきた。
「グランドウォール!」
俺が尻尾を何とかして避けようとした時、俺の足下の地面が隆起し壁が出現した。俺を乗せたままそびえる土の壁。これはグリムドか!
俺はすぐにグリムドの考えを組み、その壁から飛び降りる。その瞬間、ロックドラゴンの尻尾は土の壁へと振られ、壁は粉々に砕け散った。助かった。グリムドが助けてくれなければ、無茶をしなければならないところだった。
俺が離れた事で、兵士たちは再び魔法を放つ。先ほど以上の威力を持つ魔法をだ。しかし、体中土の鎧に覆われたロックドラゴンには、先ほど以上に傷を付ける事が出来ない。
ロックドラゴンは、撃たれる魔法など歯牙にもかけずに、俺を睨んでくる。グレイブの弓も弾かれる。
ロックドラゴンは、俺を睨みながら口を開いた。そして集まる魔力。魔闘眼をせずともわかる程。これは……ブレスか!
「全体、退避! 逃げろぉ!」
俺が大声で、ロナたちに叫ぶと同時に、ロックドラゴンの口から放たれるブレス。ロックドラゴンの口から放たれる魔力波の中に混ざる石飛礫。ブレスだけの破壊力だけではなく、石飛礫に穿たれて消し飛ぶ木々。
ロナたちもブレスから逃げるが、飛んでくる石飛礫を避けきれず、怪我をする兵士を何人か見かける。大怪我や死人が出るほどでは無いが、すぐに手当てをしなければならないものも何人かいた。
俺は走って避けるが、徐々に体を回して、ブレスを当てようとしてくるロックドラゴン。ちっ、しつこい野郎だ! このまま逃げても、最終的にはブレスに巻き込まれるだけだろう。それなら!
「っ!? レディウス様、何を!?」
遠くからロナの叫び声が聞こえる。その理由は、俺が立ち止まりロックドラゴンを見ているからだ。俺は剣を構え、体中にさらに魔力を流して、迫るブレスを迎え討とうとする。
あの技を使えば、ロックドラゴンのブレスも防げるだろう。その後の消耗も酷くはなるが、ロックドラゴンへ傷を付ける事も可能なはずだ。
俺は構えて、ロックドラゴンのブレスを迎え討とうとしたが、その機会は訪れなかった。なぜなら
「グラァッ!?」
ロックドラゴンが急に空を見上げたからだ。俺の頭上を越えて、空へと放たれるブレス。一体何が起きたのか全く分からなかったが、目を凝らしてみると、ようやくわかった。
ブレスの影響により、立ち込めていた砂煙は、ブレスが消えた事で収まり、ロックドラゴンから離れる影が見えた。そして収まりかけの砂煙から現れたのは
「しゃあねえから手伝ってやるよ」
武装したレイグだった。腕に魔法付与されたナックルが装備され、ロックドラゴンを睨み付ける。ロックドラゴンは、新たに現れた敵に、イライラとしているのか、ガリガリと歯軋りを鳴らしている。
「なんだ。手伝わないんじゃ無かったのか?」
「けっ、気が変わったんだよ。俺にも殺らせろよ」
「悪いがこいつは俺の獲物だ。そう簡単には譲れないな」
怒りに吠えるロックドラゴンを置いて、俺はレイグの隣に並ぶ。レイグの体中から渦巻く様に魔力が流れが、バチバチと音がする。こいつ、何気に器用なんだな。雷魔法の身体強化を使っている。
「それなら、早いもん勝ちだな」
レイグは、バチバチと音を鳴らしながら俺にニヤリと笑い、ロックドラゴンへと走り出す。レイグは一瞬でロックドラゴンの目の前に移動する。まるで瞬間移動した様な速さだな。
そして、レイグの肘に雷が迸ったと思った瞬間、ドガァン! と、大きな音と共に、顔が殴られるロックドラゴンの姿があった。
鎧のせいであまり痛みはなさそうだが、顔への衝撃は抑えられず、驚いている様だ。更に追い討ちをかける様に、連続でロックドラゴンの顔を殴るレイグ。
苛立つロックドラゴンは、最早レイグを見ておらず、所構わずに前足を振り回す。狙いを定めていないので、レイグには当らず、当たりそうなものも完璧に避ける。
「はっはぁ! こんなもんかよ! 貴族様も大した事ねえな!」
……あぁ? 俺の事をチラチラと見ながらそんな事を言ってくるレイグ。近付いて来たロナが、俺の顔を見て怯える。
「くく……くっくっく、あの野郎。そこまで言うならやってやるよ。纏・天!」
レイグも巻き添えにしてやる!




