117話 目標
「さあ、行きましょう!」
「お、おう」
俺は物凄くテンションが高いヴィクトリアに圧倒されながらも何とか返事を返す。王宮の門にはレグナント王太子とフローゼ王太子妃、それにガウェインたちがニヤニヤしながら見送ってくる。
周りの兵士たちは不思議な顔で王太子たちを見ているが、ヴィクトリアはテンションが上がり過ぎてそんな事には気が付かない。
……まあ、何となく理由はわかるけど。俺にはまだ……。
それから、フローゼ王太子妃が用意してくれた馬車に乗り、王都の商人街まで出る。トルネス王国は王宮を中心に、貴族街、商人街、平民街となっている。
商人街は平民街に近いほど安い物が多く、貴族街に行くほど高くなる。昨日のガウェインとの探検でわかった。
当然、俺たちが行くのは商人街だ。そこの方が色々な国から仕入れた商品が置いているらしい。昨日だけじゃ、見て回れなかったところだ。
馬車に揺られる事10分ほど。商人街の入り口にある馬車停に止まり、俺が先に降りて、手を差し出す。
「お嬢様、足元をお気を付けて」
あれは右手を出して頭を下げると、頭の上からププッと笑い声が聞こえる。こんにゃろう。笑いやがったな。でもそのまま頭を下げていると、ヴィクトリアが俺の手に掴み馬車から降りてくる。
「フフ、男爵様にエスコートしていただけるなんて」
「おう、感謝しろよ? と言ってもされた事あるだろ?」
「された事はありますが、どの人も下心がありましたからね。全く楽しめませんよ」
「俺もあるかもよ?」
俺が冗談で言って見ると
「レディウスなら……良いですよ?」
と、ウィンクしながら言って来た。俺は思わずドキッとしてしまった。俺は誤魔化すように咳をして
「さあ、行こうか」
「ええ、行きましょう」
せっかく来たのだから楽しまなければな。
商人街には色々な店があるな。普通の雑貨の店もあれば、武具屋もあり、服屋もある。奴隷商も……おろ?
「ふふ、さてと何処へ行きま……って、どうしたのですか、レディウス?」
「えっ? いや、あの奴隷商……ちょっ、そんな睨むなって!」
これから何処へ行くかと考えていたら、奴隷商が目に入ったので見てしまった。すると、楽しそうに何処へ行くか考えていたヴィクトリアが、俺が立ち止まった事に気が付いて、睨んでくる。
「……奴隷商に何かあるのですか?」
ちょっ、その怖い笑顔やめて! その怖い笑顔しながら、俺へとジリジリ寄ってくるヴィクトリア。
「ちょっと、気になっただけだから、落ち着けよヴィクトリア」
「……気になった? どうせ、女奴隷が欲しいのでしょ?」
と、ヴィクトリアに決めつけられる。別に女奴隷が欲しいってわけじゃないが。仕方ない。ヴィクトリアになら話しても良いかな?
「ヴィクトリア、何処かの店に入ろう。少し話したい事がある」
「えっ? あっ、はぁ? きゃっ!」
俺はヴィクトリアの手を握りながら店を探す。後ろであたふた慌てているヴィクトリアの声が聞こえるが、まずは店を探そう。
商人街の中を歩き、少し落ち着いた雰囲気の喫茶店に入る。中はまだ朝ごろなので、人もマチマチとしかいない。その中で、奥の角席に座る。
店員さんに飲み物を注文して、ヴィクトリアを見ると
「……ま、まるで……あ、逢い引き……」
頰に手を当てて、妖しく笑っていた。まあ、確かに俺が手を引っ張って走るのはそう見えなくもないが。
「ヴィクトリア〜……ヴィクトリアさ〜ん〜」
「あい……あいび……はっ! なんでしょうかレディウス?」
おおぅ、一瞬にして元のヴィクトリアに戻った。先ほどまでの妖しい笑みも無くなって、可愛らしいヴィクトリアに。
「いや、そろそろ話ししても良いかなと思ってさ」
俺が尋ねると、ヴィクトリアは顔を赤く染める。そして、コホンっ、と一呼吸置いて頷く。
「前にヴィクトリアの夢を聞いたのは覚えているか?」
「はい、それはもちろんです。私の夢が決まるまでは先生として教えて欲しいと言った時の事ですよね」
俺はヴィクトリアの言葉に頷く。
「ヴィクトリアの夢だけ聞いておいて、俺の夢を話さないのは、どうかと思ったから、ヴィクトリアには話そうと思う。因みに、この話を知っているのは、俺の師匠であるミストレアさんと、恋人のヘレネーさんだけだ」
俺がそう言うと、ヴィクトリアは真剣な表情を作る。そこまで堅くならなくて良いんだけど。俺は苦笑いしながらも話して行く。俺の目標である。黒髪に対する意識を変える事を。
◇◇◇
「……これが魔剣……ですか?」
「ええ、我が代表のマンネリー会長は是非アルフレッド殿に勝っていただきたいとおっしゃいまして、この剣をあなたに贈りたいと」
「し、しかし、私程度ではこのような物を買う事が……」
「なに、今回は先行投資という意味も兼ねて、アルフレッド殿に贈らせて頂きます。遠くの大国『ベルギルス帝国』より輸入いたしました、魔剣ベオウルフです」




