第6話「誘惑」
ヤヤがまぶたを開けると、天井の照明が白く滲んだ。
柔らかいシーツの感触。薬品と香水の混じった匂い。——ここは、どこだ?
「……ここは?」
かすれた声で問いかけると、視界の端で誰かが振り向いた。
「このホテルの空き部屋よ。ヤヤ君、あの後ふらっと急に倒れたんだよ?大丈夫?」
そう答えたのはレインだった。少し心配している様子だった。
「……ああ。ただの空腹だ。ずっとまともに飯食ってないしな」
「……」
街のネオンが彼女の頬を紫に照らす。少しの沈黙の後レインは腹を抱え笑い出すのだった。
「ぷっ……!!あっはっは!!あなたお腹空いてたおれたの?!てっきり能力の代償で……みたいなものだと思ったわ!!それなのに……あっはっは!」
「わ、笑うな!!カイトは?!」
「あ~……ウケる!涙でてきた!カイトなら気絶したシロウにトドメをさしてそのまま女のところにいったわよ。きっと今頃賢者タイムね♡」
ヤヤは一瞬だけ沈黙し、それから低く呟いた。
「ふぅん………あの一般人の女は?」
「ふふっ……隣の部屋でぐっすり眠ってるわよ。無事みたい。でもヤヤ君も無事で本当によかった」
ヤヤは体を起こそうとして、手首に冷たい感触を覚えた。金属の音が鳴る。
「……ところで……なんで俺は手錠で拘束されてる?ベッドから起き上がれないんだけど」
レインはこの質問を待っていましたと言わんばかりにクスりと笑みを浮かべ唇の端を上げた。その大人の妖艶な女性の笑みにヤヤは目をそらす。
「え~♡それ聞くなんて、鈍感なんだ・か・ら♡」
照明がふっと落ち、部屋の中に赤いネオンだけが残る。
レインの影が近づく。この段階でヤヤは嫌な予感かしていた。
「ねぇ~ヤヤ君ってさぁ~♡」
「な、なに……?」
レインはヤヤの上に乗り、耳元でいやらしく甘い声で囁く。
「童貞だったりする?」
「~~~!!!」
レインの質問にヤヤは顔を真っ赤にする。その反応を見てレインはさらに興奮したのか頬を赤らめ、まるで獲物を見つけたかのような目をしていた。
「か、可愛い……♡未成年の美少年、この背徳感……やっぱりいいわぁ……ね、ねぇ……いいよね?私がヤヤ君の初めてもらっても♡最初からこの時を待ってたんだから♡」
「なぁっ?!?!レインにはカイトがいるだろ?!?!浮気じゃ?!」
「カイトはただのセ・フ・レ♡」
「セ、セフレ……」
「そうよ♡さてと……」
「ちょっ……!!ほ、本気で言って……い、いやだ!初めてがこんな惨めな姿でなんて!」
「気にしな~い気にしな~い♡」
そう言いレインは服を脱ぎ出す。その一糸纏わないその姿は大人の女性そのものだった。でるところはでてひきしまるところはしっかりひきしまった美しい身体つき。思わずヤヤはみとれてしまう。そしてそんなヤヤを見てレインは妖艶な表情で再び顔を近づけトドメの言葉で誘惑する。
「大丈夫……お姉さんに全部任せていいから……一緒に気持ちよくなろ?」
その一言の返事をする前に、お互いの唇が触れ合う。ヤヤは抵抗できなかった。こうして長い大人の夜が始まるのだった……




