第49話「交錯する運命」
ここはジャスティスの本拠地、隠れバーのノクターン。
薄暗い照明が、室内のテーブルや椅子を淡く照らす。
ジャズの音が遠くで静かに流れ、ガラスのグラスがカウンターでかすかに触れ合う音が響く。
ヤヤ、カイト、レイン、ユウヒ――四人はテーブルに座り、普段の任務とは違う雰囲気の中で静かに待っていた。
ボスであるキョウは、いつものように余裕を漂わせながらも、背筋を伸ばして立っている。
「――さて、今夜は重要な報告がある。政府からの新たな通達だ。」
低く落ち着いた声。
キョウが手元の書類を軽くめくる。
「不審な人物の目撃情報が増えている。夜間に異常な行動をとる者、街中で目撃された者――報告が相次いでいる。全て都内でだ。」
ユウヒが肩をすくめる。
「いよいよエクリプスが動き始めたってこと……?」
キョウは軽く縦に首を振り、頷く。
「そうだね。エクリプスでまず間違いないだろう。現場から異能を使った形跡があった。日本国内で今現在異能を使えるのは我々ジャスティスと敵のエクリプスだけだからね」
彼の視線がテーブルの上の四人を順番に射抜く。
「そこで明日は朝から不審な動きがないか街を見回る。市民に気づかれず、影として動く。詳しい詳細は今さっきメールで送った」
「明日の朝から……。なぁ、緊急時だから明日の学校は休みでいいんだよな?」
キョウはヤヤの言葉で明日の学校を思い出す。それからヤヤとユウヒを見てはっきり言う。
「おっと、そうだったね……すっかり忘れていたよ。ヤヤと浜中は明日は学校休みなさい。こっちを優先してほしいからね」
ヤヤとユウヒは顔をあわせた後頷く。
一方カイトは携帯を手に取り、メールを確認する。
「……明日の夕方までに地方に散らばった全てのチームが都内に集合するんですね。都内以外で奴らが暴れる可能性はないんですか?」
「いや、まず間違いなく向こうは全戦力を都内に集めるだろう。なぜなら向こうも我々と同じく少数精鋭。個人で動くよりも、集団で動いたほうが動きやすい」
「なるほど……たしかに集団で動けば万が一の味方のヘマもカバーしやすいですね」
「ああ。だからこちらも全コードチームを都内に集める。あとは味方が集まるまで何も起きないことを願うだけだ」
キョウとカイトの会話が終わった後、レインはヤヤの方を向く。いつになく珍しく不安そうな表情をしていた。
「……敵は私達と同じくらいの数なのよね?最初から不利な状況では戦いたくないわね……」
「そうだな。だが不幸中の幸いか茜坂夫婦が都内にもういるっていうのは心強い……」
ユウヒが軽く微笑む。
「本当にそうだね~。二人がいるといないじゃ戦力的に天と地ほどの差があるもん……」
それからキョウは荷物をまとめ、最後に四人に言いたいことを伝える。何があろうても負けないという強い意志を感じる表情で。
「この任務は絶対に失敗するわけにはいかない。負ければ日本は終わる。だが、我々はジャスティスだ。情報を収集し、すぐに仲間に連絡、必要な時には即座に戦いに介入する――絶対にエクリプスの動きを見逃すな」
ヤヤは視線を窓の外に移す。
夜の街灯が濡れたアスファルトに反射し、ぼんやりと光を放っている。
その光景の中で、彼の胸に小さな決意が芽生えた。
――明日、何が起ころうとも、俺たちは全力で挑む。
そして、動き出したエクリプスを止める。
ノクターンの空気は静かに張り詰め、遠くで流れるジャズが、彼らの背中をそっと押していた。




