第45話「誰も知らない日本の終焉のはじまり」
――時は少し遡り、ヤヤ達が日和山公園に向かう少し前のことだ。
酒田駅前の小さな喫茶店の店内には、午後の陽が柔らかく差し込んでいた。
カウンターの奥でマスターがコーヒーを淹れる音だけが、ゆっくりとした時間を刻んでいる。
テーブル席。
そこには、キョウ、ケイ、そしてシルファの三人がいた。
カップから立ちのぼる湯気が、淡い光の中で揺れる。
キョウが深く息をつき、静かに切り出した。
「……悪いね。二人とも。もう東京に帰るって時に呼び出したりして。」
ケイはコーヒーを一口すすり、肩をすくめた。
「気にすんな。あんたと俺の仲だろ?……それで、話ってのは?」
キョウは少しだけ視線を落とした。
その表情は、どこか覚悟を決めた人間のものだった。
テーブルの上で、手がわずかに震えている。
「……日本が、そう遠くない未来に――消えるかもしれない。」
一瞬、空気が止まった。
カップを持つシルファの手が、ぴたりと止まる。
ケイの瞳が細くなり、真剣な色を帯びた。
「……どういう意味だ?」
ケイが低く問う。
キョウは周囲を一瞥し、声を落とす。
「実はだが……政府から通達があった。国家転覆を企てる“集団”が動き始めている。」
「国家転覆……?」
シルファが小さく呟く。
その声には、不安と警戒が入り混じっていた。
キョウは頷く。
「ただのテロリストじゃない。――“異能者”だけで構成された武装組織。目撃情報はほとんどない。
だがわずかな情報源からわかったこともあるようだ。……奴らが計画しているのは――“この国の終焉”。」
沈黙。
ケイの指先が、カップの取っ手を強く握りしめた。
「奴らの名前は?」
「……《エクリプス》。」
その名が口にされた瞬間、
店内の空気が、確かに変わった。
外では祭りのざわめきが遠くに響いている。
だが、三人の間に流れるのはまるで別の時間――
不吉な、何かが静かに蠢き始める前の気配。
「“エクリプス”……日蝕か」
ケイが呟くように言う。
「“光を遮る影”ってわけか。」
キョウは目を閉じ、小さく頷いた。
「奴らのスローガンは――“新時代の光を求めて”。
皮肉なものだ。自分たちで光を求めながら、その手で太陽を落とそうとしてる。」
「つまり……」
シルファが静かに口を開く。
「この世界の秩序を、一度“壊そう”としている、ということですね?」
「そうだ。」
キョウの声は低く、硬い。
「政府の中枢ですら、すでに奴らに侵食されている可能性がある。表の警察も公安も動けない。……だからこそ、“俺たち”が動く。異能の相手に対して有効なのは我々ジャスティスだけだ」
ケイは静かに立ち上がった。
「なるほどな。……そりゃたしかに、ただ事じゃないな。俺達ジャスティスにこの国の未来がかかっているってことか……」
そして、微かに笑みを浮かべた。
「まったく……とんでもない話を聞いちまったな」
シルファもまた、冷えたコーヒーを見つめながら呟く。
「そうですね……そしてきっと……この話、あのコードXIIIの人達も無関係じゃない。アウトロートリガーの能力者は必然的に最前線で戦うことになるでしょうね……」
キョウはその言葉に、静かに頷いた。
「――ああ。ヤヤとユウヒ……彼らの運命の歯車は、もう動き始めてる。」
外から太鼓の音が聞こえる。
まるで遠い祝祭が、終わりの鐘を鳴らしているかのように――。




