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恋弾~正義の殺し屋、その弾丸は君のため~  作者: YAMATO
煙草と色香と問題児篇
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第4章「初任務」

翌夜、六本木の街はネオンの雨で濡れていた。

大通りを歩く人波は絶えず、どこもかしこも金と欲の匂い。

ヤヤは黒のフードを深く被り、レインとカイトと並んで歩く。

三人の影は夜の光に溶け、妙に目立たないようで目立っていた。


「なぁ……」


ヤヤがぼそりと呟く。


「これ、ほんとに“仕事”だよな?」


「当たり前だ」


カイトが即答した。

ただし目線の先は、明らかにクラブ・アンビシャスの前に並ぶミニスカの女性たちだった。


「おい、カイト」


「観察だよ観察。敵の行動パターンを読むには、現場の“空気”に慣れることが大事なんだ。」


「ただのナンパの言い訳じゃん」


「つーか、俺は一応先輩だ。敬語使え。あとカイトさんだ」


レインは隣でくすりと笑い、赤い口紅を塗り直した。


「ふふ、アタシもまずは情報収集するわよ。さてイケメンはどこかしら♡」


「レイン……それはただの逆ナン……」


「もうヤヤ君はかたいんだから。情報収集よ♡」


カイトとレインが軽やかに人混みに消える。

ヤヤはぽつんと取り残された。


「おいおい……仕事じゃないのか……マジで先輩達ゴミすぎるだろ」


レインはすでにVIP席のイケメンと乾杯し、

カイトはバーカウンターの美女二人に両腕を絡まれている。

二人の笑顔はどこからどう見ても“潜入中の殺し屋”ではなく、

ただのチャラい夜遊びカップルである。


ヤヤはため息をつく。


(……まぁ、逆に怪しまれないか)


と無理やり納得した。


そしてそのとき、ヤヤは周囲とは明らかに違う気配を漂わせる男を見つける。

目を凝らすと、フロア奥のソファ席で“異質な空気”が蠢いている。

そこにいたのは、赤茶色のセンターパートの髪型が特徴的な写真でみたターゲット——黒澤シロウ。

隣の女性と乾杯しながら楽しんでいた。


(ターゲット発見……)


ヤヤが一歩踏み出そうとした瞬間、背後から声が飛ぶ。


「ヤヤ君〜、踊ろうよ! せっかくだし!」


「はぁっ?バカか! 敵いるんだぞ!」


「だーいじょうぶ♡ どうせすぐ殺すんでしょ? 最後に夢くらい見させてあげなきゃ可哀想じゃない?」


レインはステップを踏みながら笑い、

カイトは「やれやれ」と言いながらもDJブース前で手を振っていた。


——このチーム、壊滅的にまとまりがない。

だが不思議と、それが“ジャスティス”らしい気もした。


--


フロアの喧騒の中、ヤヤが目を細めた。

黒澤シロウが、派手なワンピースの女を肩に腕を回し、クラブの出口に向かっていた。

女の笑い声は酔いと媚びの混じった高音で、夜の街のざわめきに溶けていく。


「出た」


ヤヤが呟くと、カイトがすぐに反応した。


「タクシーだ。追うぞ」


だが次の瞬間、レインはまるでショッピングに行くかのようにスマホを取り出した。


「ちょっと待って、配車アプリ……あーもう!同じ車呼べないのね!」


「走れよ」


「走るとか無理、ヒールだし!」


黒澤のタクシーが発進する。

ヤヤとカイトとレインはその後ろを全力で走った。

カイトが手を挙げて近くのタクシーを止め、勢いよくドアを開ける。


「黒のクラウンを追ってくれ」


運転手が振り向く。


「え、映画の撮影?」


「そんな感じだ」


カイトが適当に返す。

レインが後部座席に滑り込み、息を切らしながら「助手席、暑いんだけど」と文句を言う。


ヤヤは隣で携帯を取り出し、メモをとっていた。


「……黒澤、女性同伴。推定二十代後半。ターゲットとの接触パターンを記録」


「ヤヤくん、メモとか取らなくていいのよ。どうせホテル行くだけだから」


「いや、仕事だろ?」


「真面目か!」


タクシーが青山通りを抜け、渋谷を通過。

ネオンが流れるたびに、レインはスマホで外を撮影してはフィルターをかけていた。


「見て、これ“任務中の女殺し屋”っぽくない?」


カイトが眉をひそめる。


「SNSに上げたら殺すぞ」


「冗談よ。裏アカにしか上げないから」


「それも駄目だ」


車内には気まずい沈黙が落ちる。

やがて運転手がミラー越しにぼそりと言った。


「……みなさん、職業なに?」


レインが一拍置いて笑顔を作る。


「んー、フリーランス♡」


「夜の方で?」


「まあ、そんな感じね」


「ですよねぇ」


「違ぇよ!」


カイトが即ツッコミを入れる。


そんな掛け合いの中、タクシーは首都高を抜け、夜景が流れていく。

新宿のビル群が見え始めたとき、ヤヤが前方を指差した。


「……あれです。黒のクラウン。ホテル街の方へ」


「了解」


カイトがドアに手をかけ、顔を引き締める。

レインはルージュを塗り直しながら呟いた。


「ホテル潜入とかさ、地味にテンション上がるわよね」


「女とヤるときはテンションあがるがこれは仕事だぞ」


「わかってるってば。……でもヤヤ君、初めてでしょ?こういう“尾行ラブホテル編”」


ヤヤが真っ赤になった。


「キ、キモいな!やめてくれ!そういう言い方……!」


「ふふっ……♡照れてる♡可愛い~♡」


タクシーが赤信号で止まり、車内に一瞬の静寂が訪れる。

レインが窓の外を眺めながら、にやりと笑った。


「さあ、夢喰いの王子様を狩りに行こっか」


カイトが短く息を吐き、ヤヤは気を引き締める。


――追跡の果て、夢と現実の境界がいよいよ交わろうとしていた。

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